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『浅草ルンタッタ』劇団ひとり/幻冬舎

 劇団ひとりさんの12年ぶりの小説『浅草ルンタッタ』を読みました。芸人としても大好きな劇団ひとりさんの小説、過去の2作品も大変面白かったので期待して読みました。
 
 今回の作品は前回までとの作品と違う印象を受けました。「浅草オペラ」という言葉に着想を得て書き上げた小説だということでしたが、過去の時代の出来事から想像して世界が出来上がっていく、登場人物たちが実際に生きていたんじゃないかと思う世界でした。

 物語は自分の子を亡くした遊女の千代が捨てられた子ども「お雪」を苦労しながら育てていくというという物語。

 辛いけれど周りの遊女に支えられて元気に生きていくお雪、そんな中で出会った浅草オペラにお雪は魅せられる。生活は好転することなく、千代とお雪は苦しい中でみんなでなんとか小さな幸せを感じながら暮らしていた。ところに、ある男があらわれて、人生が変わっていく・・・

 辛くても生きていくしかない、ただ生きていくには人の支えがいる、逆に言うと人は人の支えさえあれば生きていける。そんなことを感じた物語でした。

歴史には誰かではなく人が生きていた

 浅草オペラと検索すると、いつごろやっていてどうやって出来たかといった歴史の情報はすぐに手に入れることは出来る。浅草オペラで有名だった人の名前や情報も出てくる。しかし、その劇の端役や裏方、劇場の人、観客の姿は出てこない。

 出てこないだけで、歴史に残っている出来事には確実に多くの人が存在している。ただ多くの人の人生は残ることはない。小説はそんな歴史にいる人物のことを思い出させてくれる。もちろん空想の世界なので実在している人物ではない。

 実在しない人物かもしれないけれど、その時代に様々な人がいて生きていたことを想像することが出来る。小説に出てくる関東大震災では10万人を超す人が亡くなった。凄い被害だ、大変だったと思っても、10万人の人が生きていてそれぞれに人生があったことまで想像しない。

 歴史を考えるきっかけにもなる1冊でした。

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