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膝関節の痛みを考える動作分析のポイント

大腿脛骨関節は矢状面上に大きく動く関節であり前額面での動きを持たず、靭帯によって安定している関節です。また膝蓋大腿関節も大腿の上を大きく上下に滑走し、周囲の靭帯によって安定しています。足関節、股関節の間にある膝関節は決して「安定性のある関節」ではなく、足関節・股関節の機能に影響を受けやすく、使い方によって病態を引き起こしやすい関節である事が考えられます。そのため、セラピストは膝にどの様なストレスがかかっているか?を判断するために「動作分析」をしなければいけません。

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膝関節疾患の動作分析のポイント

膝関節疾患の場合、衝撃吸収が必要である立脚初期(イニシャルコンタクト、ローディングレスポンス)に問題を引き起こしています。立脚初期では膝関節の役割が大きいため、足関節や股関節の機能不全が膝へのストレスを引き起こします。

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膝関節疾患の動作分析をする際は、下図のような順で行います。膝関節疾患では前額面の問題(膝関節 内・外反モーメント)を引き起こしている事が非常に多いです。しかしながら、矢状面(膝の屈伸)、対側の立脚後期(蹴り出し)に問題があれば前額面上の問題は修正できず、前額面評価の前程としてこの2つの評価が必要です。

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膝の痛みから動作を推測する

膝関節の痛みは矢状面の評価で前方・後方、前額面の評価で内・外則の痛みが出現しているかを評価してきます。

膝関節前方の痛みとしては大腿四頭筋・膝蓋腱が問題となるオスグッド ・ジャンパーズニー、膝関節の外側への圧縮・剪断ストレスによる外側半月板損傷・伸長ストレスによる腸脛靭帯炎、膝関節内側への圧縮・剪断ストレスによる内側半月板損傷・伸長ストレスによる鵞足炎 が挙げられます。

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膝関節後方の痛みとしては外側で後外側支持組織である靭帯・大腿二頭筋の損傷、内側では半腱・半膜様筋、腓腹筋内側頭の損傷が挙げられます。後方の痛みの多くは伸長ストレスにより痛みを引き起こしている事が考えられます。

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上記の病態を把握する事で、動作分析を評価するポイントを絞っていきます。膝関節の痛みは様々な問題が考えられるため、問題点を絞り評価する必要があります。

膝関節の動作分析の手順として矢状面→対側Tst→前額面 という様に順を追って評価していきます。矢状面では膝関節の前・後方へのストレス、対側立脚後期(Tst)では対側からの影響、前額面では膝内・外側へのストレスを評価していきます。

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ランニングを分析するための動作分析

ランニングは早い動作であるため分析をするのは至難の技です。そのため、ランニングを評価する代わりに動きを捉えやすい歩行基本動作の評価が重要となります。

基本動作と歩行は類似した点はありますが、基本動作の評価ポイントは支持側であるのに対して、歩行はランニングと同様に連続した左右への重心移動があるため、動きの流動性や左右への影響を評価する事ができます。特に膝関節の痛みを把握するためには、両側下肢の関係性を評価する必要があります。


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よって、

基本動作とは評価側(下肢)である関節の安定・制御、支持側の運動連鎖を評価をする事ができる。
歩行は動きの連続であるため動きの流動性、上行的・下行的運動連鎖+左右への運動連鎖(対側への影響)を評価する事ができる。

基本動作+歩行の評価によって、ランニングに必要な要素を評価する事ができます。


膝関節を評価する基本動作についてはこちらからご覧ください。


膝関節に対する歩行の矢状面評価

イニシャルコンタクトからローディングレスポンスにかけて床反力ベクトルは膝関節の後方を通過し、屈曲方向のモーメント(力)が作用します。その結果、膝関節は10〜20°程度屈曲し、主に大腿四頭筋の遠心性収縮が働きます。立脚初期では下腿がわずかに内旋する事で膝関節が屈曲をする事ができます。

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矢状面で評価する場合は膝関節が過剰に屈曲しているか?屈曲が減少しているか?を評価していきます。

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膝関節前方の痛み▷膝関節の屈曲が大きい

膝関節後方の痛み▷膝関節の屈曲が小さい

と考える事ができます。

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 ▷膝関節の屈曲が大きい場合

立脚初期にて膝関節の屈曲が大きい場合、膝関節前面へのストレスが増大し膝関節前面組織の損傷を引き起こします。膝関節の屈曲が大きいため、立脚初期の時間は延長します。


<膝関節が屈曲する原因因子>

①距骨下関節の回内

距骨下関節が回内している場合、下腿は内旋するため立脚初期で膝関節は屈曲しやすくなります。足部を後方から観察し、回内しているかどうかを評価します。

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②骨盤の後傾

骨盤が後傾している場合、大腿骨が外旋し下腿は内旋に作用するため、立脚初期で膝関節は屈曲がしやすくなります。

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③ハムストリングスの筋力低下

立脚初期では膝関節の屈曲を大腿四頭筋-ハムストリングスが制動します。ハムストリングスの筋力低下がある事で、大腿四頭筋への依存度が高まり、膝関節屈曲が大きくなります。

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 ▷膝関節の屈曲が少ない場合

立脚初期にて膝関節の屈曲が少ない場合、膝関節の後方にて安定化を図るため膝関節の後方組織へのストレスが増大します。膝関節の屈曲が減少しているため、立脚初期の時間は減少します。


①距骨下関節の回外

距骨下関節が回外している場合、下腿は外旋するため立脚初期で膝関節は伸展しやすくなります。足部を後方から観察し、距骨下関節が回外しているかどうかを評価します。

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②骨盤の前傾

骨盤が前傾している場合、大腿骨が内旋し下腿は外旋に作用するため、立脚初期で膝関節は屈曲がしにくくなります。

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③大腿四頭筋の筋力低下

大腿四頭筋の筋力低下がある場合は、膝関節をロックする様に過伸展して膝関節の後方組織にて安定化を図ります。

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これらを踏まえて、下記の動画を観察します。

上記の動画は右側が「膝関節の屈曲が減少」しており、右に比較して左が「膝関節の屈曲が出現」している動画です。この様に矢状面評価を行い、痛みの原因因子を考察していきます。


<まとめ> 矢状面の評価ではローディングレスポンスに起こる膝の屈曲を評価する。膝前面痛であれば膝の屈曲過大、膝後面痛であれば膝の屈曲過少を推測する。膝の動きから距骨下関節、骨盤帯、膝周囲の筋力低下を評価し原因因子を考察します。


対側立脚後期の評価

対側の立脚後期の状態で問題側の立脚初期は変化します。これは「対側の立脚後期の重心移動」で、「立脚初期の重心移動が変化する」という事です。そのため、立脚初期で見られている問題が対側の立脚後期の問題ではないか?ということを評価しなければいけません。立脚後期は股関節伸展・内転・内旋、足関節背屈を足関節底屈筋群で制動し安定します。

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 ▷立脚後期での過度な内側への重心移動

対側立脚後期の過度な内側への重心移動では、立脚初期の過度な外側への重心移動を引き起こします。そのため、立脚初期では骨盤の過度な側方移動が見られる事が非常に多いです。

上記の動画では左立脚後期での重心の過度な内側への移動から右立脚初期での骨盤の側方移動が見られています。


①第1列の底屈

母趾球筋の短縮・滑走性低下による第一列の底屈位では立脚後期に過度な内側への重心移動を引き起こします。その結果、立脚初期での外方への重心移動が生まれ骨盤が側方へ移動していきます。

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②股関節の伸展・内旋制限

股関節の外転筋である大腿筋膜張筋の短縮は股関節の伸展・内旋制限を引き起こします。立脚後期で股関節の伸展・内旋が制限されると立脚後期で股関節が外旋し、母趾球への荷重量が増大します。

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 ▷立脚後期での内側への重心移動制限

対側立脚後期での内側への重心移動制限は、立脚初期の重心移動制限を引き起こします。立脚初期での重心移動が制限されるため上半身質量中心の移動によって補償する事が非常に多いです。

上記の動画は、右立脚後期の内側への重心移動制限により、左立脚初期にて上半身質量中心を左方へ移動し立脚を行なっています。

①第一列の背屈

第一列の背屈では立脚後期に足部内側への重心移動制限が見られます。そのため、立脚初期での重心移動が不十分となり、他部位での補償が出現します。

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②股関節の過度な伸展・内旋

股関節の外旋制限や股関節外旋筋群の出力低下により立脚後期の股関節の過度な伸展・内旋を引き起こすと、足部内側への重心移動制限が見られます。この場合も上記と同様に立脚初期での重心移動が不十分となります。

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両者を比較した動画がこちらです。

左側は左立脚後期の過度な内側への重心移動→右立脚初期への過度な重心移動

右側は右立脚後期の内側への重心移動制限→左立脚初期の重心移動制限


<まとめ>対側の立脚後期の重心移動は立脚初期に影響を与えます。立脚後期の過度な内側への重心移動は立脚初期の過度な移動、立脚後期の内側への重心移動制限は立脚初期の重心移動制限となります。これらは後述する「歩行の前額面の評価」の原因因子となるため、評価が必要です。


膝関節に対する歩行の前額面評価

膝関節へのメカニカルストレスを評価するためには前額面の評価はとても重要です。股関節の位置や上半身質量中心の位置から膝関節へどの様にストレスがかかっているかを推測する必要があるからです。

前額面での評価は、膝関節へ外反モーメントor内反モーメントが加わっているかを判断しなければいけません。

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 ▷膝関節外反モーメントを引き起こす動作

膝関節外反モーメントは膝関節外側の伸長ストレス、膝関節内側には圧縮ストレスを引き起こします。これらの原因が上行的運動連鎖によって引き起こしているか、下行的運動連鎖によって引き起こしているかを判断しなければいけません。

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膝関節外反モーメントによる病態として腸脛靭帯炎、内側半月板損傷、変形性膝関節症を引き起こす可能性があります。

①立方骨低下(距骨下関節回外)

立方骨が低下すると、足部が回外し下腿の外側傾斜を引き起こします。その結果、膝関節には外反モーメントが生まれます。

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②骨盤の側方移動+挙上

骨盤の側方移動、同側の挙上によって股関節は内転し、膝関節には外反モーメントを引き起こします。骨盤の側方移動の多くは股関節内転筋、体幹筋の機能低下によって引き起こします。

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③対側立脚後期の過度な内側への重心移動

対側立脚後期の過度な内側への重心移動は立脚初期の骨盤の側方移動を引き起こします。その結果、下行的に膝関節の外反モーメントを引き起こします。

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 ▷膝関節内反モーメントを引き起こす動作

膝関節内反モーメントは膝関節内側の伸長ストレス、膝関節外側には圧縮ストレスを引き起こします。

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膝関節内反モーメントによる病態として鵞足炎、外側半月板損傷、内側側副靭帯損傷を引き起こす可能性があります。

①舟状骨低下(距骨下関節回内)

舟状骨が低下すると、足部が回内し下腿の内側傾斜を引き起こします。その結果、膝関節には内反モーメントが生まれます。

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②骨盤の同側下制+体幹の同側側屈

骨盤の下制・体幹の側屈では、下半身質量中心の内方移動を引き起こし、膝関節の内反モーメントが生まれます。

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③対側立脚後期での外側への重心移動

対側立脚後期での外側への重心移動では、立脚初期での重心移動が制限されるため、体幹を側屈し重心を支持基底面に落とす反応が出現します。

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<まとめ>立脚初期の前額面評価では上半身・骨盤・下半身の関係を評価します。上記の連鎖から膝関節が内反・外反モーメントのどちらの力が加わっているかを評価し、患部への圧縮or伸長ストレスを把握しましょう。


膝から引き起こす運動連鎖とは!?

膝関節の動きが原因となり、他関節へ影響を与えることもあります。評価として回旋不安定性テストを行います。

膝関節屈曲90°の位置で下腿を内旋させ、内側に制限があるのか、外側に制限があるのかを評価します。

下腿外側が前方に動かない場合、腸脛靭帯・外側ハムストリングス・外側腓腹筋、下腿内側が後方に動かない場合、内側膝蓋支帯や鵞足の筋肉による制限が考えられます。

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膝関節を上から見ると下腿の内旋モビリティがある状態では内側・外側ともに動きを感じます。

【良好な膝のアライメント(黄)と下腿内旋の動き】

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【下腿内側の前方組織のTightnessによるアライメント(黄)と下腿内旋(青)】

下腿内側に制限がある場合は下腿内側の前方変位のアライメント(黄)を呈し、内旋モビリティ(青)を評価した際に下腿内側の後方移動制限が見られます。

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【下腿内側の前方偏位による運動連鎖】

その結果、下腿内側の前方偏位によって下腿遠位である内果が前方移動し、足圧中心の内方化による足部の回内を引き起こします。

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【下腿外側の後方組織のTightnessによるアライメント(黄)と下腿内旋(青)】

逆に下腿外側に制限がある場合は下腿外側の後方変位のアライメント(黄)を呈し、内旋モビリティ(青)を評価した際に下腿外側の前方移動制限が見られます。

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【下腿外側の後方偏位による運動連鎖】

その結果、下腿外側の後方偏位によって下腿遠位である外果が後方移動し、足圧中心の外方化による足部の回外を引き起こす事が考えられます。

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膝関節の動きやアライメントによって、全身へ影響を与えている事もあるので全身→膝、膝→全身の関係を評価し、考察をしなければいけません。

<まとめ>下腿内側の前方移動は足部の回内を、下腿外側の後方移動は足部の回外を引き起こす事が多い。全身→膝、膝→全身の関係性を評価する必要がある



参考文献
1 観察による歩行分析:医学書院 

2 結果の出せる整形外科理学療法:MEDICAL VIEW


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