【小説】東野圭吾『あなたが誰かを殺した』
【感想】
大ベストセラー作家、東野圭吾御大の新刊。
日本トップクラスの平易で読み易い語り口。
人間を描くことに長けていて、感情移入を避けられない巧みな筆致。
ミステリだけに留まらず、SF、恋愛小説もお手のもの。
デビュー当初、器用貧乏などと云われていたのがまるで嘘のよう。
しかし、本格ミステリシーンに絞ってみると、ここ数年は高評価を得た作品はあまりない。
直近で本ミスベスト10入りした作品は『沈黙のパレード』で10位になるが、正直本格ミステリとして優れているかと言われれば首を傾げる作品だった。
僕が本格ミステリとして優れていると最後に感じた作品は2009年『聖女の救済』まで遡る。
かつては新刊が出れば迷わず買う、いわゆる作家買いの対象であったけど、2021年の『白鳥とコウモリ』を最後に発売日に買うことは無くなってしまった。
しかし、今回は迷わず発売日に買った。
理由は単純。
タイトル買い。
東野圭吾を読み倒してきた人間であれば、タイトルを見た瞬間ピンと来たはず。
『どちらかが彼女を殺した』
『私が彼を殺した』
加賀恭一郎シリーズの中でも異彩を放つ、本格ミステリ界に喧嘩を打った上記2冊に連なる系譜の作品に違いない。
この2冊は事件の手掛かりのみを提示し、結末を明記しないという手法を凝らしたミステリで、僕も初読時あれこれ考えた記憶がある。
これがすんごく愉しかった。
あの興奮を今一度味わえるのかと嬉しくなった。
しかし、発売前に著者から「今回は加賀が真相まで御案内します」とのコメントが出る。
すこし残念ではあったが、それでもこのタイトルをつけるのだから本格ミステリとして愉しめるに違いないという確信はあった。
果たしてその結果は———
久々の大当たりである。
東野圭吾渾身のド直球本格ミステリだった。
帯で謳われる「ミステリ、ど真ん中」の惹句に偽り無し。
相変わらずの巧みな筆致でぐいぐいと読ませる。
一筋縄ではいかなそうな登場人物各人の視点が交わりながら、やがて起こる惨劇。
犯人は捕まっているのにも関わらず噴出する謎。
意外な形で物語に参入してくる事件関係者。
次から次へと飛び出してくる意外な真実。
これらが有機的に混ざり合って、事件は一つの歪な構図を浮かび上がらせる。
この真相は、人を描くことに長けてる東野圭吾だからこそ、危うい均衡の上に成立させられるもの。
そして何がすごいって、物語の大半は事件の検証をしているだけなのに、とんでもなくリーダビリティが高いということ。
ページを捲る手が止まらんもん。
いやぁ、久々に東野圭吾の本格ミステリを読んだ。
大満足。
そろそろ『白夜行』『幻夜』に続く3作目も読ませて欲しいところ。
生きてるうちに頼みますよ大先生。
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