独学の危うさ
独学で覚えてその道のエキスパートになる人はどの分野にも少数ですが存在します。
「天才現る!」
と言う見出しで話題になったりもしますよね。
インターネットが発達した現代では、かなりの事は独学で学べる時代になりました。たくさんある情報から正しいものとそうでないものを見分ける力がないと独学は非常危ういものとなります。
調べることをしないと言うのは論外ですが、たくさんの情報を調べると言う事で物事を比較するようになります。
GoogleやWikipediaで検索する事でたくさんの情報を手に入れる事ができます。
しかし、一部の陰謀論者はこれは危険だと言います。
「操作されている」情報を鵜呑みすることが危険だと言う事ですが、僕はそれと同じぐらい「精査されていない」情報が多いと感じます。
嘘を嘘だと見抜けないのならインターネットに依存すべきではないと某巨大掲示板を作った彼はコメントしています。
まさにその通りで、トイレの落書きレベルの情報を鵜呑みにする現代、おそらく20年前よりも情報を精査する人が少なくなったのではないでしょうか?
「独学を売りにする」という事をどう捉えるのか?
例えば寿司職人。
僕はホリエモン信者ではありませんが、彼も同じようなことを言っていたと思います。
昔は飯炊き3年握り8年。弟子入りして10年以上のキャリアを積まないと一人前になれないと言われました。今は寿司学校に入り1〜2年程度勉強すると職人になれるとも言われています。
この辺りは賛否両論。昔気質の寿司職人からしたら学校で勉強するようなものではないと言われるでしょう。
僕はこの辺り少し違う考えを持っていて、学校で勉強して寿司職人になっても構わないと思っています。ただし、卒業してからの修行は弟子入りしていなくても同じプロセスだと思います。
学校で効率よく「理屈」を学ぶ事で知識量が増えます。その知識は「学校を出てから」役に立ちます。3年かけて飯炊きを覚えるより1、2年でそれ以上のことを覚えられるのならその方が効率が良いに決まっています。
これが例えばYouTubeで30分ぐらいの「寿司の作り方」動画を見て覚えるのは少し意味が違います。寿司学校は「きちんとクオリティ保証された人」を雇い、きちんとした設備で学びます。
YouTubeは何の保証もありません。そして誰も責任を負いません。
この道50年のベテラン寿司職人
寿司学校を出て様々な知識と経験を積んだ寿司職人
これは今の時代であれば「どちらが良い」ではないと僕は感じています。「受け取る側がどちらを選ぶか」と言うことの方が大切なんじゃないでしょうか?
では効率が良ければそちらの方が良いのでしょうか?僕はそうは思いません。効率を求めるのであればこれから先、既存の寿司職人が淘汰されていくはずです。少なくとも今の時代はまだそのようなことはありません。
演奏家についても同じことが言えると思います。
独学で素晴らしいレベルに達している人もいる一方で、中身の伴わないまま独学を謳い文句にする「自称エキスパート」が量産されているのも事実であります。
独学を売りにすると言うことは、相当のレベルでないとできないはずです。テクニックがすごいからと言って素晴らしい演奏家なのかと言うとそうではないですよね。
独学というのは何でしょうか?
好きなアーティストの演奏を来る日も来る日も聴きまくって、フレーズをコピーしまくって、自分の演奏に昇華させる。
多分この事だと思っている人は多いと思うし、僕もそう思ってます。
高校時代に僕はそれをずっとやっていました。
あの頃は友達とカラオケとかボーリングとか行ったりしてたはずですが、僕はそういうのは超苦手でずっとHerbie Hancockのコードの積み方とBrecker BrothersのフレーズとLenny Whiteのドラムスタイルを研究していました。
これは独学です。
高校を卒業して音楽専門学校で同じ志を持つ仲間と一緒に音楽理論や演奏を「勉強」しました。
そこで理論的に考える下地ができたと思います。
そしてバークリーへ留学して音楽の仕組みを勉強して、高校時代からずっとやってきた「音楽的感覚」を頭で理解できるようになりました。
それを今、音楽を志す人に伝えています。
一方で「感動する音楽を作ることができる」と言うのを学校で学べるかと言うと、それはあり得ません。
これは学校を卒業してから長い年月をかけて積み重ねていくものであって、一生終わることのない課題でしょう。これは演奏だけでなく芸術の本質だと僕は思っています。
ここまでの行程を経て、「何が良くて何が良くないか」と言うのがわかり始めるのかなと最近感じるようになりました。
境界線のない世界だからこそ、グレーゾーンのダークな部分を見抜ける力が必要だと思います。
とはいえ僕もまだまだ演奏の良し悪しは何なのかと言う答えは出ません。「独学」でも「理論」でも分からない「経験」の部分だからでしょう。
この道50年の寿司職人に敵わない所以です。
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