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西洋音楽の和声がなぜ世界に広まったか

なぜトライトーンが不安定に感じるのでしょうか?

例えば「ドミナントコードは不安定でトニックに進む事で安心感を感じる」という事はなぜなのか。もっと日常的な所では、緊急地震速報のあの音はなぜビックリするのかとか、パソコンやゲーム機の起動音があのサウンドである理由などは人間が感じる音程感覚からくるものです。

クラシック音楽はもちろん、世の中に溢れるポップミュージック、ジャズ、それらから派生するほとんどの音楽は西洋音楽のハーモニー感覚が共通して存在します。

もちろん中南米、中東やインド、東南アジアなど、いわゆる「民族音楽」はこの括りではないことも多いですが、一般的に「よく聞かれている」音楽のハーモニーはドミナントやサブドミナントからトニックに進むケーデンス(終止形)でフレーズがひと段落しています。

ヨーロッパで生まれた西洋音楽のハーモニー感覚はなぜ世界中の人間の共通認識になったのかと言うことがずっと前から気になっていて、ネガティブハーモニーの研究をしていた時にその話題を掘り下げていくと色々な発見がありました。


西洋音楽の起源は西暦400年頃に教会で歌われた聖歌であり、これはミサで捧げる祈りのフレーズで当時は神様に捧げるものと言う考えで、音楽の概念ではありませんでした。

一方で、古代の数学者ピタゴラスが音の振動比率から音階を発見したのは紀元前580年頃。音楽が生まれるよりもずっと前に音楽的な理論や概念が生まれています。

僕はこの事が西洋音楽が世界に広まる一因になっているのではないかと考えます。

音の高低は物理的な法則ゆえに普遍のもので、誰が聞いても同じ印象を受けます。「結果的」に共通認識となり、これをピタゴラスが理論化する事によって西洋では古くから音の仕組みを学習することができました。

その仕組みに沿って西洋音楽が生まれてきたため、音の強弱や高低という物理現象の側面としての音楽が倍音の響きの美しさなどを感じられるようになり、それが芸術に変化していった=理屈の上に西洋音楽が出来上がっていった

と考えられるのではないでしょうか?

何事もそうですが、人に効率よく伝えるには

「いかに系統立てて説明するか」

という事が大切です。


一方、日本を含め非西洋の民族音楽は理論で学習できるような音ではなく、世代間の口伝によるものが大きいです。

このような音楽は世界中に普遍的に広まりにくく、地域が限定されるがゆえに「独自性」が生まれます。

日本の雅楽も口伝によるもので、日本で独自の進化をしていますが、世界に伝播はしていません。インドや中東の音楽も独自の発展をしているため「民族的」な音楽とされます。

西洋音楽のハーモニー概念にとらわれないという事では1960年代のフリージャズがあります。

ジャズは和音に基づいてアドリブを行いますが、この和音は西洋音楽が基になっています。

オーネットコールマンがギターやピアノといったコード楽器をバンドに入れず、それまでの「和音の概念」を否定する事で、メロディ重視の音楽が出来上がりました。

これは当時アメリカで起こった黒人の権利獲得を目指した公民権運動に起因していて、それまで縛られていた「白人的」なハーモニーを否定するという動きです。

フリージャズ自体はそこから進化する事はあまりありませんでしたが、フリージャズの音楽の断片がその後の音楽に影響を与えていることは事実です。

ただし、西洋的ハーモニーを否定したため、ハーモニー的な面ではむしろ後退した感もあると思います。フリージャズ以降のジャズはリズムやパルスの方が進化しているのではないでしょうか?


話が逸れましたが、西洋音楽が今の人間のハーモニー感覚のファンダメンタルな部分にあるのは、理論化されたもの(西洋音楽理論ではなく物理現象としての音の理論)の上に音楽が成り立ったため、系統立てて伝えやすかったと言うのが要因の一つではないでしょうか?

もちろん、自然現象からピタゴラスが生み出した音律は時代が進むにつれ転調など音楽表現が拡張する事で平均律に変化しましたが、現代の人間の共通認識としてはピタゴラスの理論が基にあると考えます。

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