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あしまるきゅー

苦手なことばがある。

胸が圧迫されたり、お腹がちくちくするようなことばたち。攻撃的で、暴力的で、投げやりな。ここに書くこともあまりいい気分はしない。

たとえば、「クズ」とか「ゴミ」なんかも好きじゃない。だから、そういう時は「がらくた」とか「はちゃめちゃ」ということばを見つけてくる。「がらくた」の方がなんだかかわいいよね。あくまで、ぼくの主観だけど。

そこで、「クズ」をひらがなに変えてみる。「くず」だったらちょっといい。そこに「星」なんかも付け足してみよう。「星くず」になると、少しロマンティック。「ゴミ」もひらがなに、えいっ。「ごみ」。そうだな、「ん」を足してみるか。「ごみん」。謝っているみたいで、ちょっぴりかわいい。

ぼくは、そうやって、粘土みたいにことばを変えていく。苦手なことばでも、表現を変えたり、少し手を加えることで、おちゃめになったりする。

文章を書く仕事をしていると、「タイトルで読者の気を惹く」ということをしばしば求められる。わざと刺激的なことばを選んだり、断定的なことばを選んだりする。あと、「内容を要約した、わかりやすい表現で!」みたいなことも。

ここだけの話、これがあんまり好きじゃない。効果があることは知っている。でも、ぼくにとって「網戸の掃除」くらい、つまらない作業。仕方ないからやるんだけどね。

れもんらいふの千原徹也さんというアートディレクターの方がいて。ぼくは、千原さんとよくお仕事をご一緒させていただく。

あれはいつだったかな。事務所を訪れた時、千原さんはちょうど109の看板のデザインとコピーをディレクションしているところだった。大きな女の子が109の建物を抱っこしているイラストのヴィジュアル。コピーはまだ決まっていない。千原さんはおもむろに、「あしまるきゅー」と言った。

女の子の足のうらが目に入る。頬がゆるむ。「ボツなんだけどね」と千原さんは言った。「おもしろいですよね」「うん、でも意味がないから」。千原さんは遠い目をしていた。

ぼくは、この人の言語感覚が好き。

いいよね、「あしまるきゅー」って。何にも意味がなくて。ただただ、かわいい。

ぼくは、そういうことばで世界を満たしてゆきたい。


「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。