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溶けた、二月
今月はたっぷりと時間がある「はず」だった。
トタン板の上に落ちたアイスクリームみたいに、みるみるうちに二月が溶けていく。やるべきことの半分さえもできずに、どろどろの甘いミルクと油になって流れていった。
締切のない生活。そんな日常が訪れると、途端に退屈になるのだろう。とは言いつつも、締切を追うことだけで消費する人生ではちょっぴり困る。この匙加減を見極めることが大事なのだと思う。
締切の間を、睡眠と、コーヒーと、ラジオが埋める。ささやかなレジスタンス。誰かと話している時だけ、遠くへ行けた。
*
みんな、すごいよね。本当にがんばって生きている。弱音は吐かないように、こころの奥に不安を押し込めながら、前を向いて立っている。
ぼくにはなんとなくわかる。こころもとない気持ちをことばにしてしまうと、立てなくなりそうな気がしているんじゃないかな。せき止められていた不安や恐怖が、鉄砲水のように噴き出しそうで。ぼくも、あなたも。本当、みんながんばって生きている。
さて、この「がんばり」はいつまで続くのか。急に崩れることもあるでしょう。きっと考えたくもないでしょう。答えなんてないのだから。
だからね、途切れる前に、一息つける場所があるといいと思うんだ。家族、友だち、知らない人。いろんなコミュニティ。
思い返せば、その「一息つける場所」のためにつくられた空間が「オンラインCafeBarDonna」だった。
今、ぼくたちが懸命に張っている「気」の糸は必ずどこかで綻びます。その時にメンタルがどっと崩れるに違いありません。その時にセーフティネットとなるのが実感の伴った対話が行われる「場所」だと思っています。
それは本当に街場のバーと変わりありません。マスターがいて、常連のお客さんがカウンターに並んでいる。仕事やプライベートの疲れで凝り固まった心をほぐす場所です。「あそこへ行けば、少し気分が上がる」という場所はあった方がいい。
街場のバーが担っていた場所をオンラインにつくりました。もちろんお互いに交流したり、企画の打ち合わせをしたりする場所ではありますが、根底にあるのは「鳥が羽を休める、やさしい止まり木」という役割です。
四月に書いた記事に、そう記してあった。
「誰かのために」と、思いついたことだったけれど、ふたを開けると自分が救われていた。ぼくの「一息つける場所」になっていた。五月の頭にはじめたそれは、次回で44回目を迎える。
締切に追われながらも、その隙間の時間にそっと開いた。二月はみっともないほど簡単に溶けていったけれど、そこで過ごした時間は貝殻のように形を残していた。この一年で、ぼくが大切にしてきた場所。みんなと一緒に育ててきた場所。やさしい止まり木。
*
そういう場所があるといい。
ぼくもそろそろ、誰かのつくった締切じゃなくて、自分のつくった締切を大切にしていく生き方にシフトしていけるといいな。そういう意味では、今はチャンスなのかもしれないから。
みなさん、三月もよろしくね。
「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。