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「読むこと」は教養のエチュードvol.16

2020年を迎え、僕からプレゼント。全ての作品を紹介させていただきます。結果発表はその後。みなさんが送ってくれた僕宛の手紙にお返事を。「わたし」と「あなた」がつながる。それはコンテスト開催の応募要項に書いたことの証明。

このコンテストにおいて、僕は「最良の書き手」でありながら、「最良の読み手」であることに努めます。

それでは、『「読むこと」は教養のエチュード』のvol.16です。



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106.まず屈服する。そこから全てが始まる話。

光室あゆみさんの作品。言葉というのは「物語の力」と「表現力の力」があります。そこに一つ重要な要素を付け加えるならば「誰が発したものか」によって重みが変わります。ガンジーの言う「世界平和」には、まだ何も行動を起こしていない人の言う「世界平和」と重みが違います。

光室さんの作品を読み、そこから彼女のページに飛びました。するとそこには美しい天然石のアクセサリーが、ていねいな言葉と共に並んでいました。

この作品の冒頭でもご自身が育ってきた環境や経歴についてのことが簡潔に述べられています。そのことを踏まえて思うことは、「光室さんの言葉は信頼できる」ということです。この赤裸々な言葉を書くことには言語化すること以上に勇気が必要です。最も他者から入られたくない部分を打ち開ける。そこには勇気があります。覚悟があります。そして、「受け入れる」という工程が必要となります。そういう人は強い。だからこそこの言葉たちは心に響く。この作品は誰かにとっての大切な手紙となると信じています。



107.涙のコンクリート 

餡子さんの作品。実際に体験した言葉や描写には力があります。それは想像力では埋めることができない力。繊細な感受性、緻密な描写、それは読み手に光景や感情を想起させます。

この文章を書くためには相当なエネルギーが必要だったのではないでしょうか。そしてその力は読み手側にも伝わるため、読むことにもエネルギーを要します。凝縮した感情を味わうためには、ゆっくりと咀嚼しながら前に進んでいかねばなりません。そこで起こる光景と感情の想起に、また心は消耗します。この文章量で、これほどの体験をさせてもらえたとしたら、それは物語の力です。餡子さんの人生と筆力。

ああ、ご無事でよかった。もっとたくさん書いていただきたい。




108.6月のシチュー 

まーしゃさんの作品。会話で展開していく運びが楽しい文章でした。たくさんの応募作品を読んでいると、いろいろなスタイルを目にします。どの作品にも思考や物語が詰め込まれているのですが、それの届け方がみんな違う。

「書きたい」という想いで書く人もいれば、「伝えたい」という想いで書く人もいる。大事なことを整理しながら書く人もいれば、大事なことはあえて忍び込ませるように書く人もいる。それがおもしろいのですが、まーしゃさんのように登場人物の言葉の掛け合いで物語を進展させることも一つの魅力だと思います。

そこには流動的な力が生まれます。まるで流れるプールのような。その流れに乗ることができると心地良い。この作品の「楽しさ」の理由はそこにあるのかもしれません。



109.短編小説「青の変化」 

ほんさんの作品。実は僕にも似たような体験をしたことがあります。ある年を境に、言葉を失うほど桜が美しく見えるようになりました。よく「花鳥風月」は年齢ごとに美への感受性が移ろいで行くという話を聞きます。

外側の世界は、内側の世界の鏡なのかもしれません。同じものを見ていても、人によって感じ方が違う。感動は自分の心がつくり出す。そして、一度、そのベクトルに進みはじめるとそれはどんどん豊かになっていくように思います。

そんなことをいろいろ考えさせてくれた素敵な作品でした。



110.ブラックコーヒー 

琉球ライダーさんの作品。確かに電車での食べものや飲み物の匂い問題ってありますよね。頷きながら読ませていただきました。

この作品を読んでいて感じたのは、ほとんどの日常生活での問題はコミュニケーションで解決できるということです。挨拶をしたり、先に相手に断りを入れたり、感謝の言葉や「ごめん」の一言さえあればクリアできるものばかりだと思います。

相手の気持ちを想像したり、自分の想いを伝える練習を日々行っていけば、風通しの良い世の中になっていくのではないでしょうか。そんなことを考えながら。何より、note初投稿にこの賞への応募を選んでくださり心から感謝しております。



111.まだない記憶を思い出して泣くな 

Azusa Maekawaさんの作品。タイトルの『まだない記憶を思い出して泣くな 』がその全てなのですが、「まだない記憶を思い出す」って素敵な言葉だなぁと思いながら読ませていただきました。これってコピーライターの仕事だと思うんですね。まだ言語化されていない現象や感情を一言で現わす。そして、その言葉が聴く人の心を変えたり、行動を変える。それはまるで魔法のように。

実際、このタイトルの言葉を自分の中で発見した時に、Azusaさんの心は軽やかになりました。現状はなにも変わらないのに、言葉一つで気持ちと行動が変わった。その体験のすばらしさ。そう、僕たちは既にある言葉を選ぶだけじゃなく、まだない言葉を見つけていくことも貪欲にしていかなくちゃいけないんです。この作品を読んで奮い立ちました。



112.[短編小説]かまいたちと発電 

前白犀さんの作品。最初の数行を読んで、前白さんのことを思い出した。前回の教養のエチュード賞でも応募してくれた方です。すごいことですよね。文章を読んで「この人だ」とわかるということは。

僕、前白さんの小説が好きなんです。平然とおかしいことが起きて、平然と進み、平然と終わる。全てが当たり前のように進んでいく感覚。そのユーモアのセンス。これが行き過ぎるとナンセンスになるのですが、ちょうどいい境界線で遊んでくれます。パラレルワールドにいる感覚を味わいたい人はぜひ、前白さんの作品をチェックしてみてください。



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vol.17へと続く


▼「読むこと」は教養のエチュードvol.15▼



教養のエチュード賞に参加してくださったみなさまへ、僕からお願いが一つだけあります。どうぞよろしくお願いします。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。