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「読むこと」は教養のエチュードvol.10

2020年を迎え、僕からプレゼント。全ての作品を紹介させていただきます。結果発表はその後。みなさんが送ってくれた僕宛の手紙にお返事を。「わたし」と「あなた」がつながる。それはコンテスト開催の応募要項に書いたことの証明。

このコンテストにおいて、僕は「最良の書き手」でありながら、「最良の読み手」であることに努めます。

それでは、『「読むこと」は教養のエチュード』のvol.10です。



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64.つながり 

前回、副賞を受賞した篭田雪江さんの作品。「愛」の源泉を考えさせられる。その確かな筆力の根底には、分厚い(豊かな)「愛」という資源があり、篭田さんはその力で物語を前に進める。読み手の手元でぐんっと伸びる感覚、その秘密はそこにある。

篭田さんの文章には「相手を想う気持ち」が細やかに描かれている。それは「あなたのためにこうした」とか「自分はあなたのことをこれだけ想っているんだ」とか、そのような自分本位な形ではない。常に、相手を尊重し、相手の心を大切にしている。「愛」というのはたったひらがな二文字のパワーワードで、いろんな定義があるけれど。僕は、それこそが「愛」なんじゃないかと思う。

美しく軽やかな表現だけでは辿り着けない領域がある。それが篭田さんが持っている源泉の部分なのではないだろうか。



65.最愛の秘密と春と修羅 

嘉晶さんの作品。読みはじめてからずっと夢見心地だった。まるで意識がトリップしたかのような体験を届けてくれる。微睡の中でやわらかな光に包まれているような。この「微睡」には影がない。影があって然るべき光景が乳白色に光を放つ。

比喩が美しい。Twitterの感想で「春の雪を想う」と書いたが、それは実際の春に降るきらきらとしたやわらかな雪ともう一つの意味がある。三島由紀夫の長編小説『豊饒の海』の一部『春の雪』だ。僕はあの作品が好きで、それは洗練された言葉にある。言葉が身体を通り過ぎる時にイメージとして広がり、消えていく。頭の中に広がる光景の美しさ。それは、実物の風景よりもずっと美しい。色彩が移ろいながらぱっと咲いては消えていく。

嘉晶さんの作品にはそれと似た体験を味わうことができる。そして、眩い言葉は、儚さを引き立てる。桜の生命は儚いからこそ美しい。



66.誰かの白地図を塗るように 

梟さんの作品。光と影、外と内。哲学的なテーマで展開していく思考の記録。そして実感を獲得していくのは、自らが思考した末にある。「答え」は指し示すものではなく、自身の思考過程を経た先にした到達できない。そのことをドキュメンタリーとして見せてくれる。

「こころ」と「表現」の関係性。表現は常に、心に影響を受けている。つまり、出口を変えようと思ならば、入り口を変えなければならない。いや、「入口を変えた途端、出口が変わった」と表現する方が正しいかもしれない。

梟さんによる救済と祈りの言葉たち。



67.『おおかみ書房』という出版レーベルを知っているか

たけのこさんの作品。『おおかみ書房』という特殊漫画出版レーベルのレコメンド。全く知らないレーベル、そして漫画であるにもかかわらず、楽しく読み進めていくことができる。「そうか、レビューってこういうことだよね」と思った。いつの間にか、僕たちは「知っているモノ」「耳にしたモノ」「興味のあるモノ」の情報しか受け取らなくなった。それはとても当たり前なのだけど。「話題の映画レビュー」や「実際に観た映画レビュー」だけが関心の対象ではない。当たり前だけれど。でも、人生にとって価値のあるのは、この作品のように「知らないけどおもしろそう」というレビューなのではないだろうか。

たけのこさんは、丁寧な表現とジャンルレスにエンターテイメントを繋ぎ合わせてレコメンドしてくれる。これこそまさに「教養」だ。専門分野と一般常識の間を埋めてくれるもの。それは人間性であり、教養なのだということを改めて気付かせてくれた。



68.工学と文学の親和性 

ケイさんの作品。はじめに述べておかなければいけないことはタイトルが素敵。『工学と文学の親和性』。もう、おもしろそう。かっこいいし。工学出身の作家の文学作品を紹介する。

このように並べて共通項を挙げてもらえると、工学系作家の構成力の強さに納得できる。計算されたエンターテイメントはカタルシスを生む。

工学と文学、それぞれの魅力を強みにして創作活動ができれば、それは大きな力を生む。ケイさんはそれを確かに実践している。



69.だんご3兄弟とあんみつ姫

ことふりさんの作品。子どもとの思い出を回想しながら、その頃の想いが蘇る。わが子の成長の喜びと、そこに少しだけ残る淋しさ。思わず、目頭が熱くなる。

母親には敵わない。気丈で、やさしいお母さん。子どもたちは目の前に広がる世界しか知らない。自分のことで精いっぱい。母親の気持ちを想像できる力はまだ持ち合わせていない。それは仕方がない。だって僕もそうだったから。

このアルバムはまだまだ続く。10年後か、20年後かはわからない。その時に子どもたちがこのnoteを読んだらきっと涙が止まらなくなるんじゃないかな。きっと一生ものの宝物になる。子どもにとって、こんな素敵なタイムカプセルはない。



70.短編小説 『星を見る』 

い~のさんの作品。神秘的でロマンティック。創作者はロマンティックであるべきだと僕は思っている。ロマンがないと希望は語れない。説明書と文学作品の違いはそこにあると思う。

この作品は最後まで読んでほしいから内容についてここで書くことはできないけれど、そんない~のさんのロマンティックな部分を共有できてとてもうれしい。

きっと心にある「ときめき」を大切にしているのだろう。それを「小説」という形で表現する。梟さんの『表現とこころ賞』の応募作品にコメントを添えていたい~のさん。そこに本来繋がりはないのかもしれないけれど、上記にある今回の梟さんの応募作品『66.誰かの白地図を塗るように』の後に読むと、よりい~のさんの心を感じることができる。 強引かもしれないけれど、ただこの不思議な関係性を祝福したい。

い~のさんの心から大切なものを思い出すことができる。


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vol.11へと続く



▼「読むこと」は教養のエチュードvol.9▼


教養のエチュード賞に参加してくださったみなさまへ、僕からお願いが一つだけあります。どうぞよろしくお願いします。





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