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生きるためのカレー

大阪の八尾という街でBarを営んでいます。

店の名はCafeBarDonna。今年で11年目になります。コロナウィルスの影響で、2月に入ってから売り上げは伸び悩み、さらには緊急事態宣言を受け、僕たちの店は休業が要請されました。10年間続けてきた店の最大のピンチです。

店をたたむことも考えました。このウィルスによる影響は終わりが見えません。世界中が頭を抱えていて、手も足も出ない状況です。「自粛」というのは、感染が広がらないための行為であって、問題を解決するための手段ではありません。ならば、飲食店は早々に閉めてしまって、別の方法で生きていった方が良いのではないかと。幸運なことに僕には「書く」という仕事がありました。生活のスケールは縮小するけれど、家族くらいは守ることができる。

「こわいです」

休業が施行される前日、店長の伊藤が電話口で声を震わせながら言いました。彼は泣きながら、続けて何かを喋ろうとしていましたが、それが言葉になることはありませんでした。店を立ち上げた時から一緒に走り続けてきた仲間です。

彼の生活のことを考えました。彼が最も恐れていることは〝店がなくなること〟です。自分の居場所がなくなる。今までバーテンダーしかしてこなかった彼にとってそれは想像のつかない恐怖でした。こつこつとお客様と関係性を築きながら、自分の城をつくってきました。突然、外に出されたところで何をして良いのかわからない。

もちろん中にはたくましい人もいます。状況に順応しながら生きる道をつくっていく。今の仕事がなくなろうが、また新しい仕事を自分で探したり、つくったりできる人。でも、世の中そんな人ばかりではありません。器用に立ち回ることができない人もいます。それが悪いというのではなく、僕たちにはそれぞれの良さがあり、それぞれの能力で助け合う必要があります。〝一生懸命〟だけじゃ生き残れないけど、今までずっと一生懸命だった人のことは生き延びさせてあげなくちゃいけない。それは仲間の責任だと思っています。

そして、僕たちは飲食店としてコロナ不況と闘うことを決意しました。

休業が施行された日、この記事を書きました。Barの営業をやめて、昼にテイクアウトのカレーを提供することに。カレーの名前はどうしよう。

コンロの火を見つめながら、カレーがぐつぐつ泡を吹く音を聴きながら、そして、この文章を書きながら思った。カクテルをつくったり、料理したりする中で、言葉では理解できていても、今までは実感としてなかった。今、目の前で起きていることは、生活を続けるための行為だ。そう、これは「生きるためのカレー」だ。それをそのまま名前にすればいい。

決まったのはコロナ不況と闘うこととカレーをつくること、そして、カレーの名前だけ。他には何も準備が整っていません。肝心の炊飯器さえ店にはありませんでした。

すると記事を読んだ方が、たくさん届けてくれました。

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たくさんの応援メッセージ、たくさんの食材、そしてたくさんの炊飯器。サポートは100件を超えました。それはお店のお客様だけでなく、noteで出会った方々からも。自然と涙があふれました。

一日おきにいろいろなことが起こります。泣いて、笑って、また泣いて。二回目の涙はあたたかい涙で。終わりのない不安が世界を包んでいますが、その中でみなさまとのやりとりに希望を発見します。人と人が支え合って、生きていく。支えられるだけでなく、僕たちも困っている人へ手を差し伸べる。そのようにして、みんなでこの危機を乗り越えたいと強く思いました。

「生き抜いて、誰かの希望になってください。 」

とある方からサポートと一緒に届いた言葉です。このピンチから未来を切り開くことができたとしたら、それは誰かにとっての希望になるんじゃないだろうか。まだはじまったばかりだけれど、みなさんからいただいた数々の言葉やサポートは僕たちの背中を強く押してくれました。CafeBarDonnaは、もう僕たちだけの店ではないのかもしれません。

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「あんたたちには愛と知恵がある。がんばるんやで」

先日、金婚式を迎えたご夫婦からの言葉です。店をオープンした時から可愛がってくだっている常連のお客様。

記事を読んだご近所の飲食店さんたちが、CafeBarDonnaへ駆けつけてくれました。「今、自分たちがやるべきことは何か。記事を読んで改めて考えました」そう言って、カレーを買ってくれました。そう、これは僕たちの店だけじゃない。飲食店全ての問題です。アイデアや情報は共有して、力を合わせてこの危機を乗り越えなければいけません。「闘う」と決めたからには、動きながら改善して、形を整えていく。考えてから動くのではなく、動きながら考える。そのような柔軟性と速度が求められます。

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「生きるための力強さと、
周囲の人のやさしさを字に込めて」

メッセージと共に書道家の雪蓮さんから直筆の書が届きました。

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猫野サラさんからはイラストいただきました。サラさんはnoteで出会ったクリエイターです。CafeBarDonnaがピンチと知り、サポートと共に「イラストや漫画でお手伝いできることがあれば何でも言ってください」と連絡をくれました。

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「食べに行って絵を描きたかったのですが、亮太くんの文章でこのカレーに対するみんなの気持ちが山ほど伝わってきました。この絵が『生きるためのカレー』のほんの一部にでもなることができれば、とてもうれしいです!」

イラストレーターのせのおしんやさんからもメッセージとイラストが届きました。

サービスを提供するのは僕たちであるにも関わらず、周りの方々のあたたかさに日々励まされています。店長の伊藤は「言葉になりません。いつか、このご恩をみなさんへお返ししたいです」と泣いていました。辛くても泣くし、うれしくても泣く、悲しくても泣くし、感動しても泣く、いつだって大忙しです。これだけ支えてもらっているのだから、もう弱音は吐きません。

みなさんのやさしさ、あたたかさ。クリエイターのエネルギー。国境を越えた遠い国から届く声援。そこに僕たちの感謝の想いを精一杯込めて、日々、鍋で煮込むカレーは特別なものになっていきます。「生きるためのカレー」にはみなさんとの物語が含まれているのだなぁと、そんなことを思いながら。

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「生きるためのカレーが、多くの人の明日をつなぐカレーになりますように!」

noteで出会ったとある方からいただいた言葉。それは深く僕の胸に刺さっています。自分たちが生きるためのカレーは、誰かの明日をつなぐカレーになり得る。そう思うと、目の前で繰り広げられる一つひとつの工程が、とびきり愛おしい。

「生きるためのカレー」は、出会いや再会という役割を果たしていることに気付きました。人と人のつながりをあらためて見つめ直すきっかけとなっています。共通するのは「ありがとう」という気持ち。

たくさんの人の協力でCafeBarDonnaは呼吸することができています。決して自分たちだけでの力ではありません。店を想う気持ちや、人を想う気持ちが交流することで奇跡のような穏やかな息づかいをみせる。「店」という場所が、それぞれの想いの交流によって息づく場所であるならば、それは年輪の深い大樹のようです。人と人、そこに想いの交流があってこそ。

まだまだCafeBarDonnaは新しいスタートを切ったばかり。もがきながら一歩一歩僕たちは前へ進んでいます。うまくいかないかもしれない。でも、闘うと決めたからには全力を尽くします。みなさん、心より感謝いたします。そして、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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※CafeBarDonnaの進行状況をこちらでお知らせしております。ご覧いただけるとうれしいです。


「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。