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神様のオルゴール

地球というものは、オルゴールみたいなもので。きりきりとぜんまいを巻き、そっと手を離すと、ゆっくりと回りはじめる。あちらこちらに住む人々の、それぞれの物語が、メロディを奏でる。至るところで、出会いと別れを繰り返し、笑ったり、泣いたり、怒ったり、眠ったり。めいめいの息づかいが調和するポリフォニー。

ぜんまいが止まると、物語はそこでストップモーション。神様がやってきて、もう一度、きりきりとぜんまいを巻く。そっと手を離すと、「止まっていたこと」なんてなかったみたいに、また彼らの生活がはじまる。

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Sinonさんは神様みたいだ。

ゆらゆらと波間を漂うように、あるいは、春の光みたいに心もとなくきらめきながらおしゃべりをする。浮かんで、溶けて、散らばって。手を伸ばしても掴めない。海月のように自由で、美しく。桜のようにたおやかで、儚い。

それがひとたび、歌いはじめると、全く別の「物語」となる。

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歌う前に、そっと、ぜんまいを巻く。

そう、それは、神様が「地球」というオルゴールを奏でるように。彼女の身体から、知らない誰かたちの物語があふれ出す。それは「知らない誰か」なのだけど、確かに息づいている。ぼくの身体を流れる血は熱くなり、記憶の扉が開き、感情がこぼれてゆく。遥か彼方の潮騒に包まれる。

神様は教えない。

ポリフォニーを奏でるだけである。それを体験した人が、気付いたり、見つけたり、思い出したりしてゆくだけ。神様は語らない。ただ、身体いっぱいに、物語を紡ぐだけ。

きりきり。それは、ぜんまいを巻く音。彼女のおしゃべりのあと、そのわずかな静寂の中で聴こえる。決して鳴ってはいない音。その瞬間、きっと彼女は神様になっている。

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晴れのち曇り、時々、雨。

京都のライブは、この上なくロマンティックで。Sinonさんの歌声と、高井城治さんのギター。静けさは宇宙のように。光は孤独を映して。それを豊かに彩ってゆく、二人のリッチな音楽の対話。

会場を出ると、空は闇に包まれて、アスファルトは雨に濡れていた。春の夜風は心地良く、火照った身体をやわらげてくれる。夢の中を彷徨っていたみたい。また、この感覚を体験したい。

今度、ライブに行く時は、耳をすませてみて。
「きりきり」という音は、夢に入る合図。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。