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「読むこと」は教養のエチュードvol.12

2020年を迎え、僕からプレゼント。全ての作品を紹介させていただきます。結果発表はその後。みなさんが送ってくれた僕宛の手紙にお返事を。「わたし」と「あなた」がつながる。それはコンテスト開催の応募要項に書いたことの証明。

このコンテストにおいて、僕は「最良の書き手」でありながら、「最良の読み手」であることに努めます。

それでは、『「読むこと」は教養のエチュード』のvol.12です。



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78.静寂に会いに行く 

ルミさんの作品。ルミさんの文章は読み急ぐのはもったいない。ゆっくりと味わいたい。書き手が綴った速度を感じながら、読み進めていくのが心地良い。書き手の速度を捉まえると、頭の中に光景が広がる。浮かんでは消え、浮かんではまた消える。余韻を楽しみながら、そっと「静寂」の中に引き込まれていく。

それはまるで室生犀星の随筆を読んでいる「心地良さ」と似ている。「文章」が似ているのではなく、「読み心地」が似ている。それは、特別な体験だ。静けさの中に感じる涼やかさ。行間の空白に意識を飛ばし、その浮遊した意識は自然とまた文章の中へ戻ってくる。

さながら瞑想のごときこの読書体験は、読み手にインスピレーションを与えてくれる。



79.はっさんのトランプ

塩梅かもめさんの作品。物語を読み進めていくうちに、自分にも似たような体験があることを思い出す。これは、誰しもの中にある経験なのではないだろうか。それが遊びであれ、スポーツであれ、ファッションであれ、音楽であれ…。自分自身を「大人」にさせてくれるのは、身近な「憧れ」の存在だ。それは、正しい言葉ではなく、その場の臨場感に圧倒されることの重要性。つまり、いくら「正しいボールの投げ方」を教わるよりも、目の前で剛速球を投げられた時に抱くときめきには敵わないのだ。

「現在の自分」からの脱却。「大人になりたい」という想いが急速に膨れ上がる瞬間。その体験は人生の中の宝となる。それを物語で描く。かもめさんは本質的な意味で小説家だ。

そして、やっぱり、登場する食べものがおいしそう。読むだけで「おいしい」って素敵だ。



80.For Tracy Hydeと彼女たち 

月の人さんの作品。For Tracy Hydeさんの楽曲と女優さんのマリアージュ。曲を聴きながら思い浮かぶ女優さんを一緒にレコメンドしてくれる。このような組み合わせの提示っておもしろい。曲と女優さんの印象が絡み合って、また別の印象が生まれる。

そこに添えられた月の人さんの熱のある言葉たち。思わず聴きたくなる。言葉によって相手の行動を変える力を月の人さんは持っている。これって大事な力だよね。その一言で相手の行動が変わるなら、言葉とはなんと偉大なのだろう。

それにしても、日本には素敵な女優さんがこんなにもいたんだ。びっくり。



81.マフラーの半分のこと

町村紗恵子さんの作品。淡く、やさしい、思い出。控えめな言葉が、彼女の繊細さを浮かび上がらせる。文章から滲み出す人柄。好感を抱く。

冬が来るときっとこの時のことを思い出すのだろう。あの時の恋心と、マフラーに込められた想いと、ママの安心感と。それは複雑に絡み合って、やさしく舞った雪の中に溶けていく。

僕は手作りのものが好きだ。そこにこのような物語が添えられているのだとすれば、尚のこと素敵だと思う。



82.子育てしていた頃 

きのこさんの作品。昔書いた自分の文章。それを読むと当時の記憶が蘇る。きのこさんは当時の文章を読み返し、積み上げてきた今日までの日々を振り返る。

ああ、「文章に残す」って素敵だな。喜びはもちろん、当時大変だった出来事もまたその時にはなかった表情を見せる。そうか、今ある出来事も、時間が経てばまた違った味わいを見せるんだ。それは樽の中で熟成されるウィスキーのように。

一つひとつの小さな出来事さえも、かけがえのない尊い存在だと気付かせてくれる。あたたかい気持ちになった。



83.パンダのイイブン 

イイブンシンブンさんの作品。改めて「当たり前って何だろう?」と思わせてくれる。僕はこの文章を読んで共感した。

その瞬間、「間違いだ」と思われることでさえも、よくよく考えてみれば、「正しいこと」の方が間違っているかもしれない。それを考えなくなるのは思考停止です。常にフラットに判断したり、ものごとを考えたりできる人間でありたいものです。

一旦受け入れて、そこから考える。それをポジティブにできる人が増えれば、世界はもっと豊かになるだろうなって。



84.スマホの中に住む人の話

madameYYさんの作品。この世界観、素敵です。幻想的であるにも関わらず、リアリティがある。そのアンバランスさが心地良い。文章を読んでいて、これは本当のことなのか、虚構のことなのかわからなくなる感覚。没頭したり、彷徨ったりする体験が僕は好きだ。

それを読み手に体験させる書き手はなかなかいない。物語に引っ張られただけで、その作品には価値がある(もちろん、この作品はおもしろさもや訝しさまで与えてくれているのだけど)。

小説の終わり方、この余韻も素敵だ。ここで終われる品の良さに惹かれる。



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vol.13へと続く


▼「読むこと」は教養のエチュードvol.11▼


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「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。