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妻's third eye

妻はいい人だ。

わたしにとっても、周囲にとっても。明るく、誠実で、意志が強く、思いやりがあって、おっちょこちょい。自然と彼女の周りには人が集まる。妻としては当然のこと、人としてこころから尊敬している。

彼女には、なんというか、人智を超えた力を感じる時がしばしばある。論理的に説明することはできないのだけれど、あえてことばにするならば「直観の鋭さ」だ。もう、これは驚きを超えて、おそろしくもある。

「この人、苦手」

たまに、テレビやネット配信などを一緒に見ていて、彼女がぼそっとつぶやく。

「え、どうして?」
「なんか、嫌な感じがする」

普段、めったに人のことを悪く言わない彼女なだけに、気になる。番組の中で、その人の言動が歪んでいる気配は全くない。むしろ、クリーンな印象さえある。「不思議なことを言うものだ」と思いつつ、その場をやり過ごすのだが、数ヵ月後、その人が起こした問題によって世間から激しく非難を受けていたりする。報道に裏の顔を暴かれたり、虚偽が明るみになって破産したり、中には事件を起こす者もいる。

「やっぱり」

そのニュースを目にして、彼女はそうつぶやく。その度にわたしは戦慄する。それが一度や二度だけではない。毎回、ほぼ十割の確率でそのような結果に至る。わたしの目には、彼女には未来が見えているように映る。

他にも、ドライブの途中で「この角の店、もうすぐ閉まるよ」と言うと、半年後くらいに店をたたんでいたりする。人と会って話した時でも「あの人と一緒に何かやると、きっとトラブルになるよ」と言うと、実際にそれが起こる。

彼女は、ことばの力をよく知っているから、それをわたしの前以外では口にしない。やみくもに人を不安にさせるようなことは決してしない。ただ、わたしだけにこっそりと教えてくれる。そのことばは近い未来、実現する。

それは魔法でも何でもなく、結局は「人を見てきた数」なのだと思う。あらゆる立場で、多くの経験を重ね、様々な人を見てきたことによって培われた力。彼女の第三の目は、そうやってぱちりと開いた………個人的にはそう信じたいのだが、「昔からだよ」とあっけらかんと話す彼女は、もしかすると本当の魔法使いなのかもしれない。「占い師になると必ず人気になる」。妻の予言後、誰かが問題を起こす度にわたしは彼女にそう伝える。

「やらない」

そう言って、彼女はけらけら笑うのだ。




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