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「読むこと」は教養のエチュードvol.8

2020年を迎え、僕からプレゼント。全ての作品を紹介させていただきます。結果発表はその後。みなさんが送ってくれた僕宛の手紙にお返事を。「わたし」と「あなた」がつながる。それはコンテスト開催の応募要項に書いたことの証明。

このコンテストにおいて、僕は「最良の書き手」でありながら、「最良の読み手」であることに努めます。

それでは、『「読むこと」は教養のエチュード』のvol.8です。



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50.宵の明星、地下5mの水脈

仲高宏さんの作品。優れた洞察力と文章力で成立したエッセイ。考察の描写はまさしく水脈を掘り当てるように深く広がり、情景の描写は天へ向かいパノラマに拡張する。そのコントラストに感じる知性の色気。そう、インテリジェンスは色気だ。

時間経過と共に、思考が飛び石の上を軽やかに跳ねるように進んでいく。難しい言葉を使うことが知性ではない。観察と想像による思考の流れ。そのひとまとり「時間」に知性は宿っている。結論に至る思考の道筋を辿る体験は、知に触れる感動。

仲さんはその道筋を読み手に親切に、かつ美しく整えてくれる。何より、読み手への信頼を感じる。読み手として「信用してくれている」と感じることはうれしいものである。仲さんはどのようなテーマであれ、あらゆる状況を中身の詰まった文章にできるのだろう。

僕にとって信頼のおける書き手の一人だ。




51.君はあの人になれない。しかし、あの人も君にはなれない 

さとうさんの作品。多くの若者に読んでほしいnote。若者だけでなく、仕事で悩んでいる人全員に届いてほしい。

仕事や人間関係は、自分に自信がある領域を見つけるまでが大変だ。反対に、それさえ見つけてしまえば他の苦手な領域に対して楽になることができる。「自分らしさ」というのは、「自分はこれが好き」や「自分の自信があるものはこれだ」というもので確立されていくと僕は考えている。それさえあれば、苦手意識や批判にある程度寛容になることができる。「自分は自分だ」と思える意識は偉大である。

さとうさんは、ご自身の体験からそのことを教えてくれる。そして、「自分らしさ」を見つけた瞬間、今までの悩みや苦手の全てが自分の武器になる。今までの体験が「読み手に勇気を与えるコンテンツ」へとひっくり返る。この作品のように。

さとうさんの豊かな表現力と、やさしい言葉のヒントはそこにあるのかもしれない。




52.時代は流れる。

クニミユキさんの作品。とにかく文章が巧い。冒頭の掴みから、話の運び、終着点が鮮やかだ。それも、全く気取るところなく進んでいく。少し、びっくりしている。プロフィールを見て、プロのライターさんだということがわかり、当たり前ながら「やっぱりプロは強い」と感じた。

この絶大なる安心感はnoteではなかなか味わえない。書き手にすっかり身をゆだねて文章を楽しむことができる。文庫本でエッセイを読んでいるあの感じ(わかるかな?)。noteの書き手は良くも悪くも読み手の心をドキドキさせてくる。〝感情〟や〝切り口〟という調味料で必要以上に揺さぶってくる。

その一方で、クニミユキさんの文章は安心する。読み手の丹田が唸るというか、重心の低い位置で感動が起こる。エッセイを書きたい人は彼女のことをチェックしておくべきだ。




53.アイディアと表現のNISSAN 

大麦こむぎさんの作品。日産のラジオCMについての熱烈なラブレター。こむぎさんの偏愛ぶりを読んでいると、こちらの心までウキウキしてくる。日産のラジオCMをつくった人にぜひ届けたい(誰か知り合いがいれば、ぜひ届けてください)。作り手は泣いて喜ぶんじゃないかな。

たとえば、チアリーダーって「何かの競技の応援部隊」ですよね。でも、チアリーダーのパフォーマンスに感動をもらう。あの感覚。「応援している人の姿を見て、周囲の人がエネルギーをもらう。

この満ち溢れる愛と執筆過程を考えると「大麦こむぎ」という書き手のことがとても気になる。小説の主人公にしたいような愛おしさを感じる(物語を書く人ならわかりますよね?)。




54.おちこんだりもしたけれど、僕はしあわせです。 

井上やすたかさんの作品。井上さんは幼い頃から、虚無感や喪失感のようなものを抱いていた。具体的な理由は語られない。「行動」によって、その空白を埋めようとして生きてきた。

そして井上さんは、この文章を書く中で光を見つける。彼にとって「このnoteを書くこと」は必然だったのかもしれない。それは、ドキュメンタリーとして熱を帯びながら展開されていく。そして、希望の言葉で結ばれる。

この作品がポストされた後日、井上さんから手紙が届いた。noteで文章を書いてきて、そして教養のエチュード賞を開いてよかったと思った。

井上さんの「明日」を楽しみにしている。




55・教養がわからない僕と読書 

tkshagiwaraさんの作品。読書を通して新しい世界を訪れ、人生を豊かにしていった過程が描かれる。彼は言う。「読書は生き方のエチュード」だと。

深く共感する。「読書」は頭の栄養であり、心の栄養でもある。読書によって自分自身が豊かになっていくのがわかる。それは専門書でも、小説でも、エッセイでも。ページを広げれば別世界が広がっている。僕も読書が好きだ。それは、尊く、愛おしい行為。

tkshagiwaraさんは、本の中に「答え」を見つけたのではない。「答え」まで辿り着くための思考力を手に入れたのだ。まさしくこのnoteは「考えるエチュード」だと言える。




56.初日の出 

伊藤緑さんの作品。うっとりする描写力。小説の世界に入り込むほどに、読み手の五感が解放されていく。豊かな体験だ。実感を伴いながらミクロとマクロの視点が行き交う。

この小説に音楽を添えてほしい。あるいは、美しい声で誰かに朗読してほしい。この言葉たちとそこから広がってゆくイメージを身体的に感じたい。

言葉がプリミティブなものに還元していく。それは祈りや祭典に近い。ミニマムな世界で肉体が躍動する。これは、読み手を新しい世界へ飛ばしてくれる装置。小説の喜びを改めて、体験することができた。



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vol.9へと続く


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