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「読むこと」は教養のエチュードvol.15

2020年を迎え、僕からプレゼント。全ての作品を紹介させていただきます。結果発表はその後。みなさんが送ってくれた僕宛の手紙にお返事を。「わたし」と「あなた」がつながる。それはコンテスト開催の応募要項に書いたことの証明。

このコンテストにおいて、僕は「最良の書き手」でありながら、「最良の読み手」であることに努めます。

それでは、『「読むこと」は教養のエチュード』のvol.15です。



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99.真昼の夢 

Yukiさんの作品。改行のないまとまった文章をこれほど興味深く読んだのはいつぶりだろうか。特にインターネットにおいては、行を空けてリズムを整理しなければ読みづらい。それがどうだろう。Yukiさんの文章は一行目を読むとそのまま二行目へ。そして三行目、四行目へとどんどん引っ張られる。そこには独特のリズムがあり、流れ続ける光景がある。とにかく文章がうまいのである。

で、興味深い点が、この文章の内容である。人によると、五行で完結してしまう。少しだけ日常を飛び越えた出来事。書く人が変われば、単なる「報告」になり兼ねない。それを見事な洞察力と描写力で読み手の心を惹き続ける。ここに「読むこと」の喜びを知る。そう、「読むこと」は楽しいことだった。それは、書く側の芸術性に触れる喜び。それはもちろん大衆性でも良いのだけれど、ともかくとして、読み手を楽しませる書き手側の基礎体力が肝となる。

例えば、30人ほど集まって、みなで一緒に長閑な川縁を散歩した後に、一斉に「今日の出来事」を書かせたとしても、Yukiさんはきっとおもしろ文章を書く。それは技術であり、洞察力である。文章が巧いとはそういうことである。



100.午睡する父の病室にて 

み・カミーノさんの作品。まず、この文章を読む。それからもう一度、最後に添付された動画を再生して、もう一度頭から読む。文章の表情が変わっていく。読み手に届く印象が軽やかに、美しく、奥ゆかしく、変化する。それは救済として響く。

それは音楽の力なのだろうか。いや、願望も含まれているのかもしれない。願いが、祈りとなり、心と記憶を清らかに洗い流す。そんな気がする。

不思議と何度も何度も読みたくなる。晴れやかな気分になる。まるで、自分の心まで洗われるようで。最後の言葉を読み終えた後、胸にあたたかい余韻が残る。



101.向かい合う日々 

間詰ちひろさんの作品。シリアスなテーマで「生きること」について、一つの答えを指し示してくれる。「死」と向き合い、受け入れること。そのことによって「生きること」が見えてくる。

読後感があたたかい。間詰さんの文章は泰然としているが、ぬくもりを感じる。それは言葉の選び方や表現というよりも、見ている世界が希望的だからであろう。世界に対する肯定感が根底にある。そういった人が描くものは、美しいのである。



102.愚劣の証明

幸村柊さんの作品。近未来に実際に起こりそうな小説。社会に対する貢献度が高くなければ必要とされない世界。全て数値化され、それがその者の存在価値となる。評価経済のさらにもう一歩先。

半ば、もうこの感覚は今の時代にもあって。ただ、貢献の定義を見誤うと危険だ。「正しさ」ばかりを追いかけてしまうと、偏りが生まれる。その偏りは激しくなる一方だ。そこに文学は生まれない。そのことを示唆している。

例えば、わかりやすい状況でしか物事を判断できなくなる。世の中には偶然や、失敗や、無駄が、社会に大きく貢献することだってあり得るのだ。時代によって「道徳」がアップデートされていくように、その時代ごとに「正しさ」の定義は異なる。兎にも角にも、良き社会風刺のメッセージとして、楽しく読ませてもらった。



103.【短編】誰かのサンタクロース 


上田聡子さんの作品。ここには希望しかない。やさしさしかない。「人を想う」喜び。そして、想われることの慈しみ。絵本にして大人や子どもに配りたい。手にした人はきっとみんなやさしい気持ちになる。

相手を想うことって素敵ですね。僕も、そういう人が好きだし、そういう人に憧れるし、そういう人になりたい。「想うこと」に喜びを見出せたら、それがどんどん楽しいものになる。そういう社会になれば素敵だなって。そういうことを考えています。だから、この作品が好き。



104.我が青春のブラ4 

E.Vジュニアさんの作品。的確な文章力、そして表現力。記憶力とその再現性の高さ。文章を読んでいると、思考が整然とされているのがわかる。思考が行動に紐づいていると同時に、楽器の演奏という身体性からもまた思考へと結びついている。いずれにせよ、呼吸するように思考する人である。

一番の驚きは、記憶と感情の言語化と再現性。もちろんそこには勘違いや思い込みのようなものはあるのかもしれないが、それを全く感じさせない筆運び。いとも軽やかにやってのけているが、これがどれだけ難しいことか。

まだまだ色々と感想を書きたいが、まとめるならば青春のブラームスの交響曲第4番が無性に聴きたくなった。




105.小説『かみさま』 

ヤスタニアリサさんの作品。美しい言葉が心地良い。その響きがとある秘密の告白に独特の印象を与える。本来ならば、眉をひそめるような行為であるのだが、その響きによってそこに色気が帯びる。それは、崇高な愛情表現として映る。

「彼」というかみさまが口にする本質的な言葉の数々。そして、かみさまと過ごした「わたし」から溢れる言葉の数々。それぞれにはっとする瞬間がある。そのどちらからも、新しい知恵や世の中の見方を発見することができる。

「もっと読みたい」と思わせる読後感。その長い余韻をしばらくの間、味わうことが楽しみの一つ。


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vol.16へと続く


▼「読むこと」は教養のエチュードvol.14▼


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