大いなる幻影
映画「大いなる幻影」
1937年のフランス映画です。
監督はジャン・ルノワールです。
映画界に燦然と輝く偉大な監督ですね。
お父さんは印象派の画家オーギュスト・ルノワールです。
第一次世界大戦が物語の舞台です。収容所のなかで、捕虜となったフランス軍兵士たちと、敵対するドイツ将校との、人間どうしのつながりを描いています。
捕虜となっても、人間としての尊厳を失わず生きるフランスの中尉。中尉は他の捕虜仲間とも親交を深めるんですね。そして、敵対するドイツ将校も、そんなフランス中尉を認め、男同士の友情を築いていくんですね。
敵対するもの同士、考えも立場も国も違うもの同士が、語りあうんですね。
多くの戦意高揚のための映画がつくられるなか、戦争に身をおく人間の、軍のリアリティを描いた映画です。
戦場のシーンがあるわけでもないですよ。爆撃や戦闘シーンがあるわけでもないです。
カメラは静かに男たちの姿、会話を写していきます。
フランス中尉をフランス映画の至宝ジャン・ギャバンが演じてます。じゃがいものような顔立ちのゴツゴツした男臭い俳優ですね。
ジャン・ギャバン演じる中尉が雪のなかを逃走するシーンがあります。白黒画面のなか、どこまでも真っ白な雪のなかを歩くジャン・ギャバンの姿をカメラは遠くから、じっと見守ります。
忘れられないシーンです。
そして、ドイツ将校をエリッヒ・フォン・シュトロハイムが演じてます。オーストリアで生まれハリウッドで活躍した伝説の映画人ですね。
なにが伝説かいうと、映画創世記の1920年代に、シュトロハイムは自分で脚本をかき、監督もし、主演もこなしたんですね。
その完璧主義から1921年の「愚かなる妻」では、カジノを実物大のセットでつくったなど、たくさんの逸話があります。
その風貌も忘れられませんね。小柄で小太りな体型に、するどい眼孔。後世の映画人の憧れであり、こわい存在なんですね。
この作品でもシュトロハイムは、その完璧さゆえ演出にいろいろ口をだし、あやうくシュトロハイムの作品になりそうだったようです。
おもしろい人ですね。
シュトロハイムと同じく、監督もし、脚本もかき、主演もした天才オーソン・ウェルズは、「後世に残す映画一本を選ぶなら、大いなる幻影だ」と、語っています。
シュトロハイムとオーソン・ウェルズはどこか似たような映画人生ですね。ふたりとも映画史に残る傑作を残し、その後、思ったような作品づくりができなかった。また、ふたりともその特異なビジュアルも共通してますよね。
監督・脚本・主演をこなす現代のもうひとりの才人ウディ・アレンは、「自分の作品は大いなる幻影の足元にもおよばない」と、語ってます。
映画人が尊敬してやまないジャン・ルノワール。
この作品もそうですが、ジャン・ルノワール作品はなぜ崇高な高級なシルクのような手ざわりがするのでしょうか。登場人物の会話、構図、衣装からしみでてるんですね。
ジャン・ルノワール監督、戦争を描いても暖かい眼差しがありますね。やっぱり、お父さんの血を受け継いでいるんですね。
人間愛、人間讃歌がどの作品にもあります。
常に人間を描き続けた監督です。
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