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新・青春映画の金字塔「ブックスマート」で観た、不安定な美しさ。(ネタバレなし)

これっていつの時代も、どこの国でもそうだけど、若さってめちゃくちゃ大きな価値を持っている。だから歴代のおとぎ話の悪役は若さを狙ってくるし、爺さん婆さんは五分に一回は自分が若い時の話か、今の若者の話をしてくる。それって面白いくらいどこでも変わらない。

だからだろうか。人はハイスクール映画を無性に見たくなる時が来る。未だにバック・トゥ・ザ・フューチャーは観るって大人も多いんじゃないか。映画の中とは文化こそ違えど、あの高校の時の良くも悪くも「不安定な」空気感はみんな好きで、いくつかのハイスクール映画たちがマイリスト入りしてる人って割といると思う。

「ブックスマート」は、そのハイスクールものマイリストに間違えなく入った。し、これから何回も見返す映画だろう。これが2010年代最後の、傑作青春映画であることに誰も異論はないんじゃないだろうか。

大体のあらすじは、2人のガリ勉ちゃん達が、高校卒業前夜に青春を取り戻すべくパーティーに繰り出す、といった一見ありがちにもなり得るストーリー。でもここはもちろんひねりがあって。そんなところも絡めつつ、この映画の胸熱ポイントを紹介できたらと思います。

ネタバレはないのでご安心を!

まずこの幼なじみのガリ勉主人公、モリーとエイミーが本当に愛らしい!

モリーは王道の優等生で、クラスから煙たがられる様なよくいたタイプ。決して一軍ではない彼女に共感できる人、結構いるのでは?彼女はあるきっかけで、ただのパリピだと若干見下してた同級生が自分と同じく名門大学へ進学することを知る。その時自分は青春を取り戻さなければならないと決意するんだけど、まぁ不器用なこと。

これは個人的に彼女の裏テーマだと思うのだけれど、勉強であれば1人で頑張れば結果が出た。でもパーティーや青春ではそうはいかない。ここでパーティーに行くということは、彼女の中で今までの自分をチャレンジすることでもあったんじゃないだろうか。勉強にストイックだったのと同じ様に、ここでもストイックにパーティーにまっしぐら。そんな彼女は後に、周りを見ずに突き進んでしまうという自分の問題に直面することになる。その時彼女はそこをどう受け入れて、乗り越えるのか。そんなところも注目してみて欲しい。

個人的に自分も視野が狭くなるストイックな人間なので、「いやー、やっちゃうよねこういうこと。わかるよ」なんて1人で呟いてた。でも実はそうしてる間に、何かを見過ごしてたりするんだよね。高校で今まで楽しんでこなかったみたいに。

もう1人の主人公、エイミーは2年前に自分がレズビアンであることを告白していて、片思いの女の子がいる。そんな背景も2020年代に差し掛かる時代感にぴったりだと思う。ここは脚本家のスザンナ・フォーゲルがオリジナルに加えた流石の手腕と言える。

モリー程は煙たがられてはいないものの、どちらかと言うと目立たない存在のエイミー。クールに見えるけど、本当は誰より優しくていつもそばで支えてくれる頼れる存在。モリーがパリピの名門進学にショックを受ける中、そばで小さな琴の様な楽器を弾きながら即興の歌(クスっとくる歌詞にも注目!)で慰める姿は、彼女の押し付けがましくない優しさが滲み出ているシーンだ。親友のモリーのためを思って行動してきて、ずっと一緒だった大好きな親友。進学で離ればなれになってしまう不安。そんな彼女と過ごす最後の日常。それがエイミーにとっての卒業前夜だ。

思ったことをそのまま伝えられたら、どんなに楽だろうか。そんな気持ちと葛藤して、なんとか自分の殻を破ろうとしている。不器用なエイミーの成長も、この映画の注目ポイントだ。

この映画はキャラクターがすごくフラットに描かれているから、こうした感情の側面はそれぞれの気持ちを汲み取らないと感情移入が難しいかも知れない。だからこそ、何回でも見れる映画なのだけど。

他にもやる気のない校長先生、学校一のモリーとエイミーの理解者でありクールな先生、そんな先生に片思いしている冴えないロン毛くん、人気者になろうとして空回りしまくりの彼、軽い女だと噂される学年のマドンナ、みんなそれぞれに葛藤していて、悩んで、向き合っていて、進んでいる。そうしたリアルで愛らしいキャラクターの感情が一つひとつ丁寧に描かれていて、そんな「不安定な」彼らが互いを理解し合い、支え合っていく姿は本当に美しい。

そんな繊細な感情を描写しつつ、ここはやっぱりハイスクール映画らしくコメディー要素もたっぷり。アメリカンなカオスな場面目白押しで、思わず声を出して笑ってしまった。アンダーソン・パークやリゾなど、脂の乗ったアーティストの曲が上手いところで使われていて、ここでは思わず指を鳴らしてしまった。

ステイホームの今だからこそ、青春にたっぷり浸ろうじゃないか。コロナで先が見えずに不安定な現実も、この映画を観終わったら不安定さも悪くないと思えるに違いない。だって僕らは今が一番若いんだから。

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