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Let's 処方提案!(理論編-総論)

前回の記事にけっこう反響がありましたので、処方提案についてまとめていきたいと思います!

はじめに

処方提案について【理論編】【実践編】でまとめようと思います。
『できるようになること』が目標!
これを読んだ方が、一度処方提案してみようかなって思ってもらえたら嬉しいです。

書いていくこと

【理論編-総論】
 ・医師と薬剤師の関係
 ・薬剤師が処方提案を行う意義
 ・処方提案を行うために必要な準備
 ・処方提案のための「確認・評価・報告」
 ・まとめ
【理論編-各論(確認)】
 ・薬剤師がバイタルサインを取る意義
 ・バイタルサインとは
 ・バイタルサインの取り方
【理論編-各論(評価)】
 ・薬学的評価とは
 ・評価の仕方
【理論編-各論(報告)】
 ・報告とは
 ・報告の方法

【実践編-総論】
 (検討中)
【実践編-模擬症例】
 (検討中)
【実践編-症例報告】
 (検討中)
【実践編-症例検討会】
 (検討中)

書きながら変わっていくかもしれませんが、なんとか最後まで書き切りたいと思います!

医師と薬剤師の関係

処方提案を考えるときに切っても切れないのが「医師と薬剤師の関係」です。
この2つの職種は「処方」という点で非常に密に関わっています。
まずそのことをおさえていきたいと思います。

医師と薬剤師が持っている権限

基本的なことですが、それぞの職種がもっている権限について確認してみましょう。
医師-処方権
薬剤師-調剤権
非常に基本的なことです。

もちろんこれには法的根拠があります。

医師法(第二十二条から一部抜粋)
 医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。
薬剤師法(第十九条から一部抜粋)
 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。

医師は例外的に調剤を一部認められていますが、これらの法律を根拠に医師の処方権と薬剤師の調剤権はあります。

医師は診断をした上で薬物療法が必要と認めた際に処方箋を発行する。
薬剤師は処方箋をもとに調剤を行う。

では、医師と薬剤師の関係は、「薬を決める人と薬を渡す人」でしょうか?

ここでもう1つ法律を確認しましょう。

薬剤師法(第二十四条)
 薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。

これが意味することを簡単に言うと「薬剤師は処方の内容が妥当か確認してね」ということになります。

「処方に疑わしい点」とは何か?
様々な解釈が取れると思いますが、
1.明らかな記載間違い
2.用法用量の逸脱
3.薬剤師として患者がこれを服用することを看過できない(ここがミソ)

大きく分けて、このように分類できるでしょう。

1.明らかな記載間違い
これは簡単で、私が経験したもので最も明らかな間違いがコレ。

例1
Rp1)ロキソプロフェンNaテープ100mg 14枚
  外用 肛門に挿入

肛門に挿入!
なんとこれは実例です。
この処方をみたときしばらく笑いが止まりませんでした(笑)
疑義紹介かけるときも、笑いを噛み殺すのに必死でした(笑)

明らかな間違いなので、疑義紹介(医師に処方内容について問い合わせること)をかけて、処方内容の確認、訂正を依頼します。

2.用法用量の逸脱
疑義紹介の代表例ともいえます。
薬剤には許されている服用の仕方(用法)、使用量(用量)が決まっています。
これは製薬会社が臨床試験で、薬剤の安全性、有効性を調べた情報をもとに、国が認可したものです。
これを逸脱して使用すると、安全性、有効性は担保できませんよってことになります。
ですが、患者の状態によっては現場の判断で使用されることがあります。

例2
Rp1)アムロジピン錠5mg 2錠
  内服 分2 朝夕食後  14日分

アムロジピン錠は通常は分1、つまり1日1回で服用する薬剤です。
分2での服用は用法の逸脱になります。
このような内容は疑義紹介対象になります。
ですが、臨床的には使用されることがあります。
「意図されているのか」はたまた「知らずに逸脱してしまっているのか」を確認が必要になります。

この例は薬剤師によって考え方が異なることもあります。

用法用量が逸脱している場合、いかなる理由であっても認められないという考えの薬剤師もいます。
その薬剤師の言わんとしているこはわかります。
ですが、私は患者の状態次第では、医師の考えを確認したうえで、もちろんその危険性も考慮し、調剤を行うこともあります。

そのための疑義紹介です。

3.薬剤師として患者がこれを服用することを看過できない
さて、この3つめがミソです。
(2)についても、コレが言えますが、(1)(2)をクリアしたうえでという前提でいきたいと思います。

さて、どのようなときに(3)があるのでしょうか?

次の例で考えてみましょう。

例3
83歳 女性
Rp1)
 アムロジピン錠2.5mg 1錠
 ジャヌビア®錠100mg      1錠
  内服 分1 朝食後   14日分

さて、この処方どうみますか?

まず(1)は問題なくクリア。
(実際の処方箋にはもっといろいろ記載の規定がありますが、ここでは薬の内容に注目するので、それ以外は割愛しています。)

(2)について、アムロジピン錠、ジャヌビア®錠ともに、問題のない投与量です。

これは、私がかつて在宅で担当していた患者の処方を少し改変したものです。
この方は、この処方をもうずっと服用しており、体調も安定していましたが、ある日変調がありました。

「最近ふらつきがあります。」

この方の世話をする看護師からの報告でした。

この報告に対して、医師はバイタルサインを確認しますが、

バイタルサイン
 BP:120/80 P:76 HbA1c:7.5
 呼吸苦なし 空腹感なし 脈:整

つまり、「問題なし」の状態だったのです。

医師はここで所謂「めまい止め」の処方を出そうとしました。

そこで私は「待った」をかけました。
めまい止めを処方する前に考えて欲しいことがあったからです。

「ふらつき」とありましたが、どういったときにこの症状はでるでしょうか?
様々な原因で起こりますが、現在の処方から考えると、

・アムロジピン錠(降圧薬)→ 血圧低下 → 低血圧 → ふらつき
・ジャヌビア®錠(血糖降下薬)→ 血糖降下 → 低血糖 → ふらつき

このストーリーが立てられます。

先出のバイタルサインを確認するといかがでしょうか?

アムロジピン錠、ジャヌビア®錠のどちらのストーリーも当てはまらない気がします。
血圧は正常。血糖測定はされていませんが、低血糖で起こる諸症状なし。
両剤ともに問題がないようにみえます。

しかし、

「アムロジピン錠を中止しましょう」

と、私は医師に提案しました。


提案の根拠を医師に説明のうえ、医師はアムロジピン錠を処方から削除しました。

そしてその後、この方のふらつきは消失しました。

その際のバイタルサインは以下のよう。

バイタルサイン
 BP:130/85 P:70 HbA1c:7.5
 呼吸苦なし 空腹感なし 脈:整

著変なし。

一体何があったのでしょうか?

私は何を根拠にアムロジピン錠が疑わしいと考え、医師に中止を提案したのでしょう?

看護師
 「最近ふらつきを訴えるんです。」
医師
 「血圧は?」
看護師
 「120/80です。」
医師
 「なんかふらつきに関係ありそうな薬剤はあるか?」
山口(薬剤師)
 「ジャヌビア(糖尿病治療薬)とアムロジピン(降圧薬)があります。」
医師
 「低血糖は違うな。血圧も正常。どうしたもんか。」
山口
 「アムロジピンが怪しいと思います。」
医師
 「なぜ?」
山口
 「アムロジピンはCaブロッカーですが、血管だけでなく全身のCaチャネルを遮断する可能性があります。この方は最近リハビリを開始しました。これまで車椅子のみでの移動でしたが、立位姿勢を取る練習を始めたことで、アムロジピンによる筋力低下の影響が見えたのかもしれません。」

つまり、

アムロジピン錠(降圧薬)→ 血圧低下 → 低血圧 → ふらつき

ではなく、

アムロジピン錠(Caブロッカー)→ 骨格筋のCaチャネル遮断 → 筋力低下 → ふらつき

というストーリーを想定していたわけです。

結果、アムロジピン錠は中止となり、ふらつきは消失。
この方の健康は保たれたわけです。

私は、薬剤師としてこの処方の服用を看過できなかったわけです。

「ふらつき」はアムロジピン錠の副作用が原因かもしれない。
「めまい止め」では効果が期待できず、処方カスケード、多剤併用になるかもしれない。

こういった際に、(3)の疑義紹介が必要となるでしょう。


先日、疑義紹介が関わる1つの記事がありました。

これは(2)の事例に当てはまる内容でした。
担当した薬剤師は医師に疑義紹介をかけるも、返答は「記載の通りでいい」。

それで患者は10倍量のもの薬剤を服用し、意識障害を呈してしまいました。

この記事に寄せられているコメントを読むと、
「薬剤師の指摘を聞かない医師なんて。。。」
という声がよくあります。

ですが私は、この薬剤師は(3)をはたさなかったのではないかと思うのです。

もちろん、処方を間違えた医師にも責任はあります。
この薬剤師の方を存じていないので、詳しいことはわかりません。
あくまで、記事を読む範囲での私の考えとして読んでいただきたい。

用量の逸脱があるから、薬剤師は医師に疑義紹介をかけます。
返答で「記載の通りでいい」と得たわけですが、それで「疑わしい点」が晴れたはずがないのです。
抗けいれん薬を10倍量で服用するなんて、『薬剤師として看過できるわけがない』のです。

正直、この記事を読んだとき私は「薬剤師、なにしとんねん」って思いました。

医師に「記載通りでいい」と言われたから、そのまま出す。
それでは、医師と薬剤師の関係は、「薬を決める人と薬を渡す人」になります。

薬を渡すだけなら、処方提案は必要ないかもしれない。

薬剤師は、医師の決めた処方を「目の前の患者が本当に服用しても良いか」を判断する立場にあるはずです。
言い換えれば、「この薬物療法が、目の前の患者に適切か」をみなくてはならない。

一方で、医師は患者の状態をみて診断をつける。
そして必要な治療を考える役割があります。

決して、薬を決める人と、薬を渡す人ではないとううことは、最初におさえておきたい。

この内容に様々な意見があるだろうと思います。
言葉足らずなところは見受けられますが、わかっていただきたいのは「薬剤師はただ薬を渡すだけの人ではない」ということを、まず薬剤師自身が改めて思い起こして欲しいということです。


薬剤師が処方提案を行う意義

そもそも薬剤師が処方提案を行う理由、その目的とはなんでしょうか?
処方提案をすることが目的になってはいけない。
その意義があるはずです。

それは一言「患者により良い薬物治療を届けるため」に他ならない。

「より良い薬物治療」とは?
先述した内容がそうだろう。

処方箋の記載間違え。
もしこのまま薬剤を交付してしまったら、正しい治療ができない。
それを薬剤師が確認して改めることは良い薬物治療を提供することになる。

用法用量の逸脱の確認。
これももちろんそう。
場合によっては、相当な危険がある事例。
正して、良い薬物治療を届けたい。

そして、薬剤師として処方を看過できないとき。
患者にとってより良い薬剤の選択であったり、不要な薬剤、副作用が疑われる薬剤の中止の提案することで、患者により良い薬物治療を実施できる。

注意しなくてはならいのは、ときに「処方提案=減薬提案」と捉えてしまうことがあることだ。

あくまで「患者により良い薬物治療を届けるため」に薬剤師は処方提案を行うべきであり、結果として「減薬に繋がる」ことがある。


処方提案を行うために必要な準備

処方提案のための「確認・評価・報告」

処方提案をするときは根拠が大切になる。

ここでいう根拠とはエビデンスとは少し違う

エビデンスとは「科学的根拠」という意味合いが強いが、私がここでいう「根拠」とは「ストーリーが成立しているか」という感覚だ。

ストーリーが成立しているか?とはどいうことかというと、先述の症例を用いて解説する

例3
83歳 女性
Rp1)
 アムロジピン錠2.5mg 1錠
 ジャヌビア®錠100mg      1錠
  内服 分1 朝食後   14日分

バイタルサイン
 BP:120/80 P:76 HbA1c:7.5
 呼吸苦なし 空腹感なし 脈:整

この方がふらつきを訴えとき、私はアムロジピン錠が怪しいと考え中止を提案した。

この考えに至ったのは、この方が最近リハビリを開始しており、

アムロジピン錠(Caブロッカー)→ 骨格筋のCaチャネル遮断 → 筋力低下 → ふらつき

といったことが起こっているのではないかと考えたからだ。

アムロジピン錠により筋力が低下するというエビデンスはない。
しかし、薬学的に考えてCaブロッカーであれば起こりうる話しだろうと、一応スジは通っているはずだ。

スジが通っていることを、ストーリーが成立していると私は言っている。

このような、「あるかもしれない」「ストーリーはできている」ことが処方提案では重要になる

また、こういった提案は実際に通りやすい。

このストーリーの立て方が、「確認・評価・報告」になる。


1. 確認
まず、ストーリーを立てるために必要なのは、「確認」だ。

ここでいう「確認」とは、「患者の状態の把握」という意味だ。

患者の状態把握
 ・薬は正しく服用できているか
 ・バイタルサイン(時系列が大切)
 ・主訴の変化
 ・副作用症状の有無
 ・生活環境、ADL

上記の内容を把握することが第一歩。
薬剤師は、患者に渡した薬を、患者が服用後までフォローする。
そして患者の身体、生活そして健康がどう変化しているかを確認する必要がある。

2.評価
次に確認した状態を「評価」つまり Assessment を行う。

評価(Assessment)
 ・フィジカルアセスメント
 ・薬学的評価

詳細は各論で述べるとして、フィジカルアセスメントは患者の健康状態が良いかどうかをみる。
薬学的評価とは、フィジカルアセスメントをもとに、現在の服用薬で良いかどうかをみること。

この(1)(2)でストーリーは作成される。

確認で、患者の状態で生活環境をみたとき「リハビリ」が開始となっている。
評価では、バイタルサインに変化ないがふらつきあり(フィジカルアセスメント)、アムロジピン錠による筋力低下が原因かもしれない(薬学的評価)となった。

私はこうしてストーリーを立てている。

3.報告
(2)まででストーリーは作られるが、それで終わってはいけない。

確認して評価した内容を、医師に報告し、処方に反映していく必要がある。
この報告が「処方提案」になる。

ストーリーは処方提案に説得力を生む。


まとめ

処方提案に必要なことを総論として書いてみた。
自分で書いてみてわかったことだが、まだ自分自身でもまとめ切れていない。
それでも最後までお読みいただいた読者の方には感謝申し上げたい。

随所に愚考が散らかっている文章ではあるが、私が言いたいのは、「なんとかして患者の健康をよくしたい」とううこと。
そのための「処方提案」をこれまで積み重ねてきた。
それを少しでも社会に還元できればと思う。

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