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VRChatから考えるプロテウス効果


はじめに

みなさんはVRChatでこのような体験をしたことはあるでしょうか。

  • 女性アバタになると足を閉じる。Kawaiiムーブをしてしまう。

  • 背の高いアバタや大きいアバタになると強くなったように感じる。

ほかにもアバタによって自分のふるまいが変わってしまったり,自分の心にも変化があったりするのではないでしょうか。

このように身体の見た目が変わることで心や行動が変わることはプロテウス効果(Yee & Bailenson, 2007)と呼ばれています。

ここからはVRChatで起きている現象に関係がありそうなプロテウス効果の研究をいくつか紹介していきます。


魅力的なアバタを使うとより友好的になる
背の高いアバタは交渉課題でより強気になる
(Yee & Bailenson, 2007)

プロテウス効果の元論文。
VRChatでも,アバタの顔がいいと普段よりも人と積極的に話せたこと,背が高いと強気になったことがあるのではないでしょうか。


黒人アバタでよりリズミカルにドラムを叩くようになる (Kilteni et al., 2013)

こちらの研究は,アバタの見た目にヒトのふるまいが引っ張られることを示唆しています。これは最初に述べた女性アバタを使うとkawaiiムーブをしてしまうことに近いと思います。

(Kilteni et al., 2013)


黒人アバタで黒人に対する潜在的な偏見が減る (Banakou et al., 2016)

アバタを変えることで,その集団に対する潜在的な偏見が減るようです。あるアバタが嫌いだとしても,そのアバタになることで,嫌いではなくなるかもしれません。

(Banakou et al., 2016)


スーパーマンになるとより人助けをするようになる (Rosenberg et al., 2013)

スーパーマン体験後,床に落としたペンを拾う回数が増えるようです。私達がロールプレイのつもりでやっていることも,案外アバタの外見の影響が大きいかもしれません。

(Rosenberg et al., 2013)


ドラゴンになると高所での恐怖が弱まる(小柳ら,2020)

ドラゴンアバタになることで,ヒトアバタよりも高所での恐怖が弱まるという研究。ワールド探索などで高い場所に行くときはドラゴンになるのもありかも。

(小柳ら,2020)


まとめ

私達が自由だと思っている心や行動は,アバタの見た目にかなり引っ張られているようです。ここまでアバタによるいい結果を紹介しましたが,アバタに魂が囚われていると考えることもできます。まさに肉体は魂の牢獄であり,身体に魂を惹かれた人類です。

プロテウス効果の論文は,実験室実験のような短い体験で起きていることから,VRChatのような長期的なアバタ体験ではさらに強くなるでしょう。自分の行動や心がアバタに強く影響される可能性を含んでいます。そのため,プロテウス効果の研究を通じて,アバタの効果を理解する必要があります。プロテウス効果を有効活用すれば,状況に応じて適切にアバタを使い分けることで,QoLの向上につながるでしょう。

そして,プロテウス効果はアバタを見るだけでなく,アバタになる(身体化する)ことが重要だと述べられています (Yee & Bailenson, 2009)。そのため,身体化感覚を操作することで,プロテウス効果の強さを制御できるのではないかと考えています。

参考文献

[1] Yee, N., & Bailenson, J. (2007). The Proteus effect: The effect of transformed self-representation on behavior. Human communication research, 33(3), 271-290.
[2] Kilteni, K., Bergstrom, I., & Slater, M. (2013). Drumming in immersive virtual reality: the body shapes the way we play. IEEE transactions on visualization and computer graphics, 19(4), 597-605.
[3] Banakou, D., Hanumanthu, P. D., & Slater, M. (2016). Virtual embodiment of white people in a black virtual body leads to a sustained reduction in their implicit racial bias. Frontiers in human neuroscience, 10, 226766.
[4] Rosenberg, R. S., Baughman, S. L., & Bailenson, J. N. (2013). Virtual superheroes: Using superpowers in virtual reality to encourage prosocial behavior. PloS one, 8(1), e55003.
[5] 小柳陽光, 鳴海拓志, 安藤英由樹, & 大村廉. (2020). ドラゴンアバタを用いたプロテウス効果の生起による高所に対する恐怖の抑制. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 25(1), 2-11.
[6] Yee, N., & Bailenson, J. N. (2009). The difference between being and seeing: The relative contribution of self-perception and priming to behavioral changes via digital self-representation. Media Psychology, 12(2), 195-209.


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