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データコラボレーションが必要な理由、日米で差は900倍近く

はじめに

Acompanyの高橋です。

ARR1000億を突破するクラウドデータウェアハウスの雄、Snowflake。先日、CEOであるフランク・スルートマン氏が都内で開いた記者会見で、日本はアメリカに次ぐ2番手の市場として重視している内容の記事が公開されていました。

今回はSnowflakeも注目する日本のデータ利活用と、今後のトレンドについて思っていることを書いていきます。


===2023.10.29修正===
データブローカー市場の規模について誤って世界市場規模を参照してしまっておりましたので、修正いたしました。

データ利活用における日米の差

IPAによる「DX白書2023」によると、日米のデータ利活用の割合は日本55%に対して、アメリカ52.3%という調査結果が明らかになっています。日米のデータ活用の差を感じていたので、日米が同等(むしろ日本の方が割合が高い)という結果に驚きました。

しかしながら、成果の視点では様々な項目があるなかで日本の成果は米国に比べて軒並み3分の1以下の水準になっており、データ利活用が進むものの成果に課題があるということが明らかになっていました。

日米におけるデータ利活用の成果比較

なぜ、これほどまでに差が開いているのか。これまで弊社ではアメリカ市場への進出に向けて、実際のプレイヤーである企業たちにデータ利活用についてヒアリングを実施していました。その中で見えてきた一つのポイント。それはデータ流通市場の有無です。

巨大な壁があるデータコラボレーションの差

アメリカでは、データブローカーの存在によりデータ流通市場が形成されています。データブローカーを利用すると、ほんのワンクリックでメールアドレスなどに紐づく大量のユーザーの属性情報などを購入することができます。これにより、アメリカではデータ分析を行うためのデータ量を簡単に得ることができます。

ここで示すデータ量というのは、何人のデータがあるというレコードの数よりもどんな情報があるかという属性の数が大きな違いとなっています。データ分析においては、属性の数が多いほうが有利なことが多いです。

日本でもデータ流通市場を形成しようという動きがあり、情報銀行として国も力を入れていました。情報銀行市場は208億円の市場規模が予想されています。一方で、データブローカー市場は、約19兆円。市場規模を比べると約900倍の差があります。

日米のデータ流通関連市場の比較

むしろ、成果の面はよく3分の1程度に抑えられているなと思う規模の差です。

今後、日本のデータ利活用をアメリカと同等成果に持っていくためにも如何にデータの拡張を進めていくのかが重要なポイントになると思います。

なぜ、日本にデータブローカーが存在しないのか?

まず比較対象とする情報銀行とデータブローカーを比べていくと、データ収集の難易度に大きな差があります。

データブローカーはすでに企業が保有するデータを買い集め、ボリュームを作ることで価値を出して販売しています。これに対して、情報銀行はゼロからサービス設計をデータを集めるアプローチが中心でした。当然、情報銀行側のアプローチは非常に難易度が高いです。結果、なかなか難しい状態に陥っているように見えています。

なぜそのような方法を取らざる得ないかというと、日本のデータ流通はユーザー同意頼りになっていることが一因です。例えば、アメリカではメールアドレスは自由に流通させてしまえますが、日本だと実務上、個人情報として扱う必要があり提供のハードルが高いです。そのため、情報銀行ではデータ提供を前提とした利用規約で事前に同意を取得し、ある程度自由度高く流通できるようにしようというアプローチが採用されていたわけです。

もう一つの側面としては、データサイエンティストの不足です。つまり、データを買ったところで扱える人がいなければ意味がないので、データを増やす以前に人の確保が直近10年などでは優先されていました。なので、データ購入ニーズが相対的に低かったと考えられます。結果、市場が大きくは形成されなかったわけです。

データコラボレーションのトレンド

データブローカーの存在によりデータ利活用の成果が向上していることは説明しましたが、一方でプライバシーの観点では批判的なスタンスが強まっている状態でもあります。

プライバシー保護をしなければいけないが、データの幅を拡張しなければ成果を出すことも難しい。そのようなジレンマの中で、ユーザーのプライバシーを保護しながらデータコラボレーションを実現するニーズが高まっています。

データブローカーのプライバシー問題については以下の動画がわかりやすいです。

データコラボレーションという観点では、SnowflakeもData sharing機能を提供しています。重視する指標としてIR資料でも利用状況の数字が公開されています。実に26%ものSnowflakeユーザーがこの機能を利用しています。

Snowflake IR資料より

日本でもデータコラボレーションのトレンドは強まっており、直近だけでも経営統合によるヤフーLINE発足KDDIがデータクリーンルームの発表など動きが活発になっています。

これらのどのシーンにおいても、個人情報やプライバシーの配慮が論点として挙げられています。

プライバシー保護とデータコラボレーション

プライバシーとセキュリティを確保しながらデータコラボレーションを実現するという観点で注目されるソリューションが「データクリーンルーム(DCR)」です。

データクリーンルームとは「プライバシーを保護しつつ、複数事業者のデータを掛け合わせて活用する環境」を指します。詳しい説明は弊社のブログ記事をぜひ読んでください。

「規制が多いなどの事情があるにしても、あまりにも低い」「データの利活用が大きく遅れているのは、データを自社に閉じているせい」と国内で先行してデータクリーンルームの構想を推し進めるKDDIの執行役員常務 マーケティング統括本部長の竹澤 浩氏は述べ、この状況の変革のためにデータコラボレーションを推進する構想を描いています。

データクリーンルームのポイントは、従来のデータ基盤のようにただ処理をするというわけではなく、セキュリティやプライバシーを保持しつつデータ処理をする環境であるということです。これらが重要な理由はプライバシー保護要請の高まりや規制の強化が背景にあるためです。

プライバシーの強化とそれらに対応する技術の重要性をData EX Platformの取締役COO 兼 博報堂DYホールディングスの研究開発組織である「Marketing Technology Center(MTC)」の室長代理を務める西村 啓太氏も述べています。

トレンドに関しては、プライバシー規制は厳しくなっていく一方だと思っています。Cookieに関しても欧米では個人情報として扱われるようになっていますし、個人情報を含むデータ連携においてもより規制されるようになっていくでしょう。
しかし、そんな状況だからこそプライバシーテックの重要度はさらに上がっていくと考えています。例えば、プラットフォーマーが提供する「データクリーンルーム」。最近特に活況となっていますが、データクリーンルームを用いることで、自社データとプラットフォーマーが持つデータの連携をより安全に行えるようになるのです。
規制が進む中でデータマーケティングを継続していくには、こうしたプライバシーテックが欠かせないものとなるでしょう。

マーケティング領域におけるプライバシーデータ活用のこれから【セミナーレポート】より

世界のプライバシー規制と日本の位置

日米のデータコラボレーションの比較にて、データ利活用の成果を創出するためにデータコラボレーション(扱えるデータ量)が差を作る一要因であると書きました。また、プライバシー保護も同時に重要であることに言及しました。

少し古い情報ですが2012年の経産省のIT融合フォーラム・パーソナルデータWGの資料を参照すると圧倒的にアメリカが利活用に積極的であり、事業者の利益に寄っていることがわかります。一方、日本は事業者利益よりではありますが、やや利活用に消極的なスタンスとなっています。

個人情報保護に関する法制度と展望-パーソナルデータの利活用は推進されるのか?  より

上記資料の作者である高崎先生に直接伺ったところ、この構図自体は現状も大きく違わないということでした。

実際にこの領域で事業を行う当事者の視点では、2022年4月改正個人情報保護法における仮名加工情報の導入など、データ利活用のための法整備も一定は行われており、適切なデータコラボレーションに関しても余地は十分にあるなと感じています。

また日本政府もDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)を始めとしたデータ流通・連携について取り組みを推進しており、新たな枠組みを含めた可能性が生まれてきているとも感じます。

まとめ

日本のデータ利活用において、米国との差分としてデータ流通によるコラボレーションに限界があることを取り上げました。一方で、日本のエンタプライズITの領域は10兆円超えという巨大市場です。より成果を生み出すためにも如何に自社のみならず、外部データを利用できる土壌を創るかがポイントになると考えていますし、投資も始まっています。

同時に、コラボレーション対象のデータに対するプライバシー保護も社会的に重要な要請となっており、ただ流通させればよいというわけではなく、プライバシー保護とデータコラボレーションの両立が重要な論点となっています。

日本は規制のスタンスとしても米国ほど自由ではないものの欧州ほど限定される状況ではないため、データコラボレーションの市場の形成においては市場規模だけではなく、規制のバランス面でも適しています。

GAFAMのような圧倒的なプレイヤー不在であるからこそ、連合による新たな価値創出が図れるデータコラボレーションは、日本のデータ利活用において非常に有力な武器になっていくと思います。

Acompanyとしてもこの領域の大きな市場形成に向けて尽力していきたいと思います。

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