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【短編小説】完全犯罪に猫は何匹必要か数えてみて 


作詞作曲した 偽物の本物の楽曲 「完全犯罪に猫は何匹必要か数えてみて」 の小説になります、ぜひ音楽と一緒に読んでください。

第1章: ノートと猫たち


アオイが目を覚ますと、机の上に広げられたノートが目に入った。表紙には大きく「完全犯罪」と書かれ、中には黒と青のインクが渦巻くように踊っている。

黒い文字は怒りを叫んでいた――「キライキライキライ」。
青い文字は痛みを滲ませていた――「会いたいイタイイタイ」。

その間には、「レイを殺せ」と何度も繰り返されている。アオイは指でなぞりながら呟いた。「レイって誰?」

部屋には3匹の猫がいた。黒猫クロ、白猫ミルク、三毛猫チャチャ。それぞれがノートをじっと見つめている。その視線を受け止めながら、アオイは苦笑いを浮かべた。

「完全犯罪に猫は何匹必要か? 3匹もいれば十分かもね。」

ノートをめくると、「京葉線 午後2時」「中央線 午後5時」「感情を消せ」という短い指示が並んでいた。

アオイは窓の外を見た。遠くに京葉線のホームが揺れている。その向こうに、人影が霞んで見えた。

「好きも嫌いも、どっちもめんどくさい。全部なくすなら、それが完全犯罪ってやつ?」

彼女はノートを手に取り、部屋を出た。その背後を、クロ、ミルク、チャチャが静かに追ってきた。


第2章: 京葉線 午後2時

午後2時、アオイは京葉線のホームに立っていた。人混みの中、不意に「レイ」の背中が目に入る。黒いジャケット、揺れる髪――確かに彼だ。

「いた……の?」

足を踏み出した瞬間、彼の姿は人混みに溶けて消えた。幻影か現実か分からず、アオイは舌打ちをした。

視線を移すと、ホームの端に黒猫クロがいた。ギターケースの上に座り、アオイをじっと見ている。彼女はその場へ歩み寄った。

ケースには古びたステッカーが貼られており、その中に「完全犯罪」と手書きされたものがあった。その瞬間、記憶の断片が頭をかすめる。

フェンダーのストラトキャスター。レイが奏でる音。熱狂する観客。そして、それに惹かれる自分。

しかし、その感動はどこか嫌悪感を伴っていた。

「好きだった。でも、嫌いになりたかった。」アオイは静かに呟く。「感情って、ほんとめんどくさいね。」

クロがギターケースを引っ掻き、カタッと音を立てた。それはまるで「次に進め」と言っているようだった。

アオイは煙草を取り出し、煙を吐きながら笑った。「分かってるよ。次に行けばいいんでしょ。」

電車がホームに滑り込む。彼女はドアが開く音を背に、電車へと足を踏み出した。


第3章: 中央線 午後5時

午後5時、アオイは中央線の車両に乗っていた。吊り広告の「普通の幸せ」という文字が目に入る。彼女は鼻で笑った。

「普通の幸せ? そんなの、私には似合わない……。」

ふと視界の端に、「レイ」の背中が見えた気がした。黒いコート、その存在感――間違いなく彼だ。

思わず追いかけるが、次の瞬間には消えていた。その代わりに、座席の隅で三毛猫チャチャが丸まっているのが目に入った。

チャチャの足元には、傷だらけのギターピックが落ちている。それを拾い上げると、「完全犯罪」と刻まれていた。

アオイはピックを手のひらで転がしながら言う。「ねえ、完全犯罪に猫は何匹必要?」

チャチャは静かに立ち上がり、次の車両へと歩き出す。その後ろ姿を追うように、アオイは車両を移動した。

「好きも嫌いも、めんどくさい。」彼女は呟いた。「全部なくせたら楽になれるのかな。」

チャチャは振り返ることなく消えた。残されたアオイの胸には、苛立ちと安堵が混じり合っていた。


第4章: レイの真実

暗い部屋の中、アオイは猫たちに囲まれていた。黒猫クロが彼女をじっと見つめ、その視線が胸を刺す。

「レイを殺したいと思ったのは君だ。」クロの声が頭の中に響く。「でも、それは自分の感情を壊したいと思ったからだ。」

その瞬間、すべてが繋がった。ノートの最後のページには、赤い文字でこう書かれていた――

「完全犯罪は、感情を消し去ることで完成する。」

「レイなんて、本当はいなかったんだ。」アオイは苦笑した。「好きと嫌いが作った幻想か。」

手に握ったギターピックを強く握りしめたあと、床に投げ捨てた。その音が静かな部屋に響く。

「感情を消すなんて、つまらない。めんどくさいままでいいじゃない。」

窓を開け放つと、冷たい風が部屋を満たした。


第5章: 完全犯罪の答え

朝、アオイは窓を開け、京葉線のホームを見下ろした。一瞬、「レイ」の背中が見えた気がする。しかし、彼女は追いかけなかった。

「完全犯罪に猫は何匹必要かって?」彼女は呟いた。「答えはゼロ匹。感情があったほうが楽しいに決まってる。」

耳の奥で「Paranoid Android」のリフが流れる中、アオイは日常へと歩き出した。



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