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人類進化と料理について学習したこと

人類進化と料理について、学習したことを簡単にまとめてみました。

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料理の利点

脳が機能するためには、他の器官と比べて多くのエネルギーを必要とする。つまり、脳容量が増加するためには、十分なエネルギー摂取を必要とし、脳容量と食性には密接な関係がある。現在、人類の脳容量の増加は、肉食が大きく影響していると考えられている。肉類は、植物類と比べて栄養豊富であり、特に、脳の発達に寄与するビタミンB群のナイアシンなどの重要な栄養を多く含んでいる。
しかし、霊長類は、生肉を常温で潰したり混ぜたりする処理だけでは、十分に効率よく消化することができないため、簡単に肉食に適応できたわけではなかったと考えられている。肉類を効率よく消化することが可能となった理由として、石器や火の使用が挙げられ、さらに、石器や火の使用による料理の発明も人類の肉食適応に大きく影響したと考えられている。料理によって、肉類などからの栄養の吸収効率は、大幅に向上した。具体的には、肉類に火を通して組織の細胞膜が破壊されることで、栄養の吸収効率が約50%も向上するという調査結果もある。
このように、肉食、特に料理を伴う肉食により効率的にエネルギーを摂取できるようになったことが人類の脳容量増加に大きく関係していると考えられている。また、エネルギーを効率的に摂取できるようになっただけでなく、火の傍で食事ができるようになったことや多様な食物をより安全に食べることができるようになったことも、料理による利点として考えられる。

Richard Wranghamの説

料理の開始時期については、人類学者の意見は分かれており、約50万年以上前から行われていたとする説がある一方で、旧石器時代後期まで行われていなかったとする説もある。決定的な考古学的根拠がないため、考古学的には様々な説がある。そこで、古人類の歯や骨を生物学的に調査することにより、間接的に食性や食物の扱いについて推定することが試みられている。動物の進化過程における身体の解剖学的特徴の関係は、その動物の特性の中でも、特に食性に影響される。R. Wranghamの説によると、料理を伴う肉食の開始時期は、約180万年前のHomo erectus出現時であるとしている。この説の根拠としては、3つの根拠を挙げている。
1つ目は、火を使用したと見られる最初の記録が約200万年前であることである。考古学的調査によると、約200万年前までに人類が火を使用したという痕跡は、発見されていない。つまり、肉食の開始時期は、少なくとも約200万年前よりも後である。
2つ目は、脳容量が急増した時期が存在することである。約200万年前以降、人類の進化過程において、急激な脳容量増加を伴う進化が生じた時期は、約180万年前のHomo erectus登場時および約80万年前のHomo erectus heidelbergensis登場時、約20万年前のHomo sapiens登場時という3つの時期しかない。料理の利点を考えると、この3つの時期のいずれかにおいて、料理を伴う肉食が定着したと考えるのが妥当である。R. Wranghamは、Homo habilisからHomo erectusへの移行があった約180万年前のHomo erectus登場時が、料理を伴う肉食の開始時期として最も有力であると考えている。
3つ目は、Homo erectusの登場時期と歯などの縮小時期が一致することである。Homo erectusが登場したのと同時期に、人類の歯や下顎、胸郭などの部位が大幅に縮小したということがわかっている。これらの解剖学的変化は、食性に関連した変化であると考えられ、その原因として、料理の定着は矛盾しない。料理をすることによって、栄養吸収効率を向上させたり、食物をやわらかくしたりすることができるため、歯などの部位の縮小が料理を原因としたものである可能性がある。
また、Homo erectus段階で人類は、木登りの能力を失ったと考えられており、これは、恒常的に地上で眠りはじめたことを意味するが、火を使用せずに恒常的に地上で眠ることが可能だったとは考えにくい。この点からも、約180万年前のHomo erectus登場時に火の使用がはじまり、同時に料理もはじまったと考えることができる。

Robin Dunbarによる指摘

以上のようなR. Wranghamの説では、料理を伴う肉食により、効率的なエネルギー摂取が可能となったことで、脳容量の急増を代表的な変化とした短期間の急激な人類進化が実現したとしている。しかし、料理によって、あらゆる食物の消化効率が向上するわけではない。料理の効果が期待されるのは、主として肉類と根茎類ばかりである。人類が食べる食物のうち、肉類と根茎類は、約45%を占めるにすぎず、料理が人類進化に大きく貢献していたとしても、それだけで十分な理由とはならない可能性がある。また、人類と比較すると少量ではあるが、チンパンジーが生肉を好んで食べるように、肉食には料理が必要であるというわけではない。このような点をR. Dunbarは指摘している。
R. Dunbarの指摘では、Homo erectusの登場時に見られる脳容量の増加は、必ずしも料理を伴う肉食によるものであるとは言えないとしている。つまり、Homo erectusの登場時に肉食は開始したが、生肉の肉食であった可能性があり、それよりも後に料理は定着したと考えることができるということである。ここで重要な問題点として挙げられていることは、料理をしないで生肉を食べたときに、肉類に含まれている栄養の約3分の1を失ってしまうことが人類進化上、不都合だったかどうかという点である。人類進化上、肉類に含まれている栄養の約3分の1を失ってしまうことが不都合であったならば、Homo erectusの登場時に既に料理が開始していたとするR. Wranghamの説が支持されることになる。

料理の起源

古人類がどのような食物をどのような方法で食べていたかについては、考古学的証拠や生物学的証拠を併用して調査しても、なお明らかにすることは難しい。しかしながら、実際に、道具や火の使用により、人類は、他の動物には食べることのできない部位の肉類を食べることができるようになった。そして、肉類を食べることにより、人類は、Australopithecus段階から、脳容量を増加させ、Homo段階へと進化することができた。Homo erectus段階で料理を伴う肉食が開始されたと考える説が有力であるように思われるが、決定的な証拠はない。ただし、少なくともHomo erectus段階以降、いずれかの時期に料理を開始し、現代のHomo sapiens段階へと到達したことは事実である。逆に、現代のHomo sapiens段階へと到達するためには、料理が必須であったと考えることもできる。人類進化において、料理は、解剖学的に非常に重要な要素になっていると言える。

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【参考】
このnoteは、主として、京大理学部科目「人類学第1部」のレポートとして作成しました。その他の参考文献は、以下の通りです。
[1] Dunbar, Robin(2016)『人類進化の謎を解き明かす』、鍛原多惠子訳、合同出版。
[2] Wrangham, Richard(2010)『火の賜物 ―ヒトは料理で進化した―』、依田卓巳訳、NTT出版。
[3] 山極寿一(2008)『人類進化論 ―霊長類学からの展開―』、裳華房。

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