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市販のサプリ(植物ステロール)で老化による難聴を予防できる?

Unlocking Sound: Common Supplement Might Combat Age-Related Hearing Loss という論文ニュースから。論文自体はPLOS Biologyに掲載されています。


加齢に伴う難聴は、内耳のコレステロール減少が原因の1つかもしれない

元々、脳のコレステロールが加齢とともに減少することが示されていました。

研究者らは、内耳の有毛細胞(OHC)のコレステロールの減少が、加齢性難聴と関係があるのでは、という仮説を立てました。

老齢マウスに内耳においてコレステロールは減少していた

マウスの内耳におけるコレステロールと、コレステロールの分解とリサイクルを促すCYP46A1の量を計測したところ、高齢のマウスの内耳においてコレステロール値は若いマウスよりも低く、逆にCYP46A1については高いという結果になりました。

加齢でCYP46A1が活発になることでコレステロールが少なくなる

因果関係としては加齢によりCYP46A1の活性が亢進するため、コレステロール値が下がっていると想定されます。

今回の研究では免疫蛍光法により初めて、内耳の細胞(内有毛細胞(IHC)・外有毛細胞(OHC)・支持細胞(SC))においてCYP46A1が発現していることを発見しました。

聴覚において加齢性の変化が起きる前の2ヶ月齢のマウスに対して、CYP46A1を特異的に活性できる抗HIV薬であるエファビレンツを投与しました。するとエファビレンツの投与によって、外有毛細胞(OHC)のコレステロールレベルが低下し、それに伴い外有毛細胞の機能(=音を増幅する)が変化することが分かりました。

外有毛細胞の機能や動作の維持にはコレステロールが深く関わっている

外有毛細胞(OHC)は内耳において音の増幅に関わっていますが、外有毛細胞の側壁であるタンパク質プレスチンにおけるコレステロールレベルが正しく保たれている必要があります。

加齢によって内耳のコレステロールレベルが低下すると、外有毛細胞のプレスチンに悪影響が出ると考えられます。

植物ステロール摂取で聴力低下を軽減する

抗HIV薬であるエファビレンツを投与するマウスに、同時に植物ステロールも摂取させました。

3週間の植物ステロール摂取により、外有毛細胞(OHC)におけるコレステロールがエファビレンツ投与のみに比べて増加することが示され、また外有毛細胞の機能を示す歪成分音響放射(DPOAE)の値も改善しました。

これにより、植物ステロールが加齢によるコレステロール不足を補い、聴力低下を予防する可能性が示されました。

血液脳関門(BBB)を突破できないコレステロールの代替となり得る植物ステロール

ちなみに血液脳関門(BBB)という脳の「門番」がいるため、コレステロールはBBBを通過して脳まで到達することができません。脳に存在するコレステロールは脳内でのみ生成できます。つまり、外部から補給することができません。

しかし、植物ステロールはこのBBBを突破することができ、かつ構造がコレステロールに類似しているため、植物ステロールはコレステロールの代替となる可能性が示唆されています。

【龍成メモ】

今回の研究はあくまでもマウス実験なので、植物ステロールによって人間の加齢性難聴の聴力保護ができるのかどうかまだ証明されていませんが、その可能性はありそうです。

また、抗HIV薬が耳に悪い(=耳毒性)ことは以前の研究でも示されていましたが、抗HIV薬エファビレンツの使用が聴力低下につながるメカニズムを示せたことは非常に大きな発見です。

論文リンク

元論文

Phytosterols reverse antiretroviral-induced hearing loss, with potential implications for cochlear aging

植物ステロールとコレステロール

Dietary intake of plant sterols stably increases plant sterol levels in the murine brain

Plant sterols and cholesterol metabolism are associated with five-year cognitive decline in the elderly population

Plant Sterols the Better Cholesterol in Alzheimer's Disease? A Mechanistical Study

抗HIV薬の耳毒性

In Vitro Assessment of Antiretroviral Drugs Demonstrates Potential for Ototoxicity

Noise-induced hearing loss in mice treated with antiretroviral drugs

Effect of HIV and Antiretroviral Treatment on Auditory Functions

#コレステロール #加齢性難聴 #難聴 #ステロール #抗HIV薬

※以下、DALLE-3で作成した画像です。異次元ですね

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