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高齢者が騒がしい環境で言葉を聞き取れない理由

When Elders Can’t Hear Words at a Noisy Holiday Gathering, Too Many Brain Cells May Be Firing at Once という論文ニュースから。

高齢者が騒音下で会話や音を聞き取りづらい原因には、脳の処理が関係していることを示したジョンズ・ホプキンス大学の研究

65歳以上の約半数が難聴

国立長寿医療研究センターの調査によると、日本の65歳以上のシニアの半数にあたる約1,500万人に難聴があると考えられています。

上記調査はWHOの基準に従い、純音聴力検査で500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hzの音を聞いた際に、良い方の耳の聴力レベルの平均が25dBを超えた場合に「難聴あり」としています。

全国高齢難聴者数推計と 10 年後の年齢別難聴発症率 ―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)より

上図からも65歳以上で急激に耳が悪くなっている(=難聴の割合が高くなる)のが分かると思います。65歳以上に限った話ではありませんが、女性よりも男性の方が難聴の発症割合が高いのも特徴です。日常生活で支障が出始める40dBを超える難聴についても男性の有病率は女性よりも高くなっています

騒音下での音の聞き取り力が落ちる老齢マウス

特定の音を聞いたら水の注ぎ口をなめるように訓練されたマウスに対して、騒音下(ホワイトノイズ)という条件で同じことを行います。

すると、老齢マウスの方が若いマウスよりも、騒音下で音を感知して注ぎ口をなめはじめる動作に支障をきたすようになりました。

音がないのに舐め始めてしまう老齢マウス

若いマウスは音の始まりや終わりで注ぎ口をなめる傾向がありました。

一方で老齢マウスは、音を手がかりに舐め始めるだけでなく、音が出る前にも舐め始める様子が観察されました。この行動は、音がないのに「音があると思い込んでる」可能性があります。

音に関する脳活動が収まらない老齢マウス

Two-photon excitation microscopy | Wikipedia

研究チームは二光子顕微鏡を用いて、マウスの聴覚皮質を観察しました(写真は二光子顕微鏡による腸の写真。今回の実験の写真ではありません)。

騒音下で音を聞いている際に、若いマウスの脳では一部の神経細胞が活発になる一方、他の神経細胞は抑制されたりオフの状態になっていました。

老齢マウスにおいては、ほとんどの神経細胞が活動するような神経活動のバランスが崩れた状態になり、騒音下でオフになっているべき神経細胞も活発になっていました。

音が鳴る前に活動してしまう老齢マウスの脳細胞

Ryan McGuireによるPixabayからの画像

音の合図がある直前に、老齢マウスでは若いマウスに比べて、最大で2倍もの神経細胞の活動が見られました。特にオスでは、音が始まる前に注ぎ口をなめる傾向がありました。

「抑制」が効かない老齢マウスの脳

「若いマウスは周囲の騒音が神経活動に及ぼす影響を抑制できたが、老齢マウスは神経活動の抑制ができなかった」と研究者は述べています。

【龍成メモ】

60歳~79歳を対象にした1,109人の最長13.3年間に及ぶ追跡調査では、難聴の人(片耳25dB超)の方が「知識力」と「情報処理のスピード」の衰えが速いことが分かっています。

年を重ねても維持されやすいとされる「知識力」が難聴の人は低下してしまうこと、そして50歳中頃以降に低下する「情報処理のスピード」がより急速に低下するという特徴があります。こちらに日本語でのわかりやすい解説もあります。

難聴は認知症リスクとしても注目されていますが、上記のように認知症にならずとも通常生活に大きな影響を及ぼすことになります。

Sri Harsha GeraによるPixabayからの画像

#老人性難聴 #加齢 #難聴 #脳科学

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