あの島に六つのnoteを隠して

「無人島に持っていきたい物は、なんですか?」
 サバイバルナイフ、食糧、スマホ、親友……多種多様なワードが予想されるけれど、私が無人島に流れ着いた時、携えていたのは三冊のノートと一本のペンだけだった。ひとの気配のないこの島では、なんら役に立たない物でしかなかった。

 私はその島で洞窟を見つけ、そこで暮らし始めた。
 時に魚を釣るために海へ行き、時に自生する山菜を採るために山を登った。悲嘆に暮れていたのは最初の頃だけで、私は孤独に生きることに慣れていった。

 それでもときおり、他者の不在が強烈に寂しく感じられた。
「どうしたの?」
 と、ここでは私の悲しみに声を掛けてくるものは誰もいない。

 私はその寂しさを浄化させようと、言葉にすがった。一本のペンと三冊のノートはそれなりの月日を経て、ようやく私の役に立とうとしていた。

 そのノートが徐々に私の言葉で埋まっていく。過去の想い出や物語、そして現在の思考を綴った日記と。今の私が用いることのできるすべての言葉を駆使して、私自身のために言葉を費やした。

 時を同じくして、私は誰もいないこの島に誰かがいたことを示す痕跡を見つけた。それは何の偶然か、言葉が綴られた紙だった。一枚だけではなかった。あらゆる場所にそれは置かれ――あるいは打ち棄てられたように――、筆跡から書かれる内容まで様々だった。

 かつてこの島には誰かが――しかもそれはひとりではない――いた。しかも彼らは私と同じように、言葉をよすがにしていた。

 そんな言葉でしか繋がれない、顔も知らない間柄の彼らが、これからも孤独にこの島で過ごすことを余儀なくされる私を慰め、そして顔も知らない彼らの言葉が私を鼓舞した。さらに彼らの存在は、私に「読まれる」という視点を与えた。

 私の言葉は、私の言葉のまま、私から離れた誰かの言葉になるのかもしれない。

 だから私は見えない誰かをぼんやりと想像しながら、ノートを破り、島のいくつかの場所にそれを残していった。いつか誰かがこの紙に書かれた言葉と出会ってくれるかもしれない。こうして私が誰かの言葉と出会い、生きる、よすがとなったように。保証のない想いとともに。

 破り、一枚の紙となったそれを、私はnoteと名付けた。

 どれも私にとっては特別な言葉だったけれど、特に思い入れ深い六つのnoteを大切な場所に隠しておくことにした。隠していても、誰かがきっと見つけてくれる。そんな想いを込めながら。



 今は亡きあのひと、との想い出を。

それから祖母はゆっくりと運転するぼくの横で、回想するように語ってくれた。それはたのしかった日々、先ほどまでとは色調の違うしあわせだった頃の記憶。あの日に戻りたいという未練がましさは感じられない。ただ胸に秘めていた愛おしさを淡々と小出しにして、さっぱりとしている。


 あなたの人生に変化を与えた一冊の書物を。

そして読み終えた一冊の本は、その内容、本そのものの佇まいとともにあなたにとって特別な一冊になったわけですが、残念ながら長い月日の中で単行本版はあなたの手元を離れ、今、本棚に残っているのは文庫版のみになってしまいました。


 幼き日の死の葛藤と冒険を。

「心臓が動いている」
「心臓が動いていたら、生きてることになるのか?」


〈人間〉への信頼、そのまなざしを。

入り組んだ構造の壮大な物語がひとつの形となって読む側の前に姿を現した時、手が届かないほど遠く離れていて、美しくも憧憬を感じていることしかできなかった物語に、身近で手の触れえる場所にまで近付いてくれる瞬間が訪れる。


 読書、という言葉の海で惑うことを。

小説を読み始めた頃、私は分かることを何よりも重要視していた。分からなければ、面白くても面白い、と言ってはいけない、と生真面目に。分からなければ面白いなんて言ってはいけないし、感想なんてもっての他だ、と。特に好きなのに分からなかった本は何回も読んだ。でも分からなかった。でも色々読んでる内に、別の思考が浮かぶようになった。


 そして書くつもりのなかった、私自身を。

かつて誰からも、私からも愛されなかったゴミ屑同然の物語の延長線上にあるそれは、人の目に触れ、私だけでは気付くことのできなかっただろう、ちいさな煌めきを見つけた。私の目が曇っていなければ、それは確かに煌めきだった。


 あなたと出会わせてくれて、ありがとうございます。
 そして、
 と出会ってくれて、ありがとうございます。

(という、割と最近のnoteでの、ちょっとした自己紹介でした~)


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