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誰のための東証再編なのか

 来年4月、東京証券取引所の市場区分が変わる。懇談会に出席した有識者による情報漏洩など、順調とは言えない今日までの再編の歩み。しかし本番の来年こそ、本質的な諸問題が露呈すると筆者は考える。一体、誰のための再編なのか?


市場区分はどう変わる? なぜ変わる?

 現状の『東証一部』『東証二部』『JASDAQスタンダード』『JASDAQグロース』『マザーズ』の五市場が、『プライム』『スタンダード』『グロース』の三市場となる。再編の背景にはメリハリの欠如があろう。日本の全上場企業3,700社強のうち、過半を大きく超える2,200社弱が東証一部に籍を置く。企業が最上位市場を目指すことには何ら異論はないが、その後の降格基準が甘く、一度登り詰めたら安泰という状況。その結果、東証一部に相応しいとは言えない企業が多数存在し、市場の魅力がアピールできない。それを変えようというのが今回の再編だ。海外マネーの流入を期待してのことだろう。

 では、どう変わるのか? 現状の五市場に曖昧に区分される企業が、基準厳格化された三市場に再配置される。現行のJASDAQグロースやマザーズにいる企業は『グロース』へとスライドするだけだが、東証一部・二部の企業は、発行株式の流動性やガバナンス体制などによって『プライム』と『スタンダード』に振り分けられるようだ。

 なんだ、そんなことか…では済まされない。近年、王座を勝ち取ったインデックスファンドの存在を無視できないからだ。TOPIX(東証一部)に組み込まれていれば、玉だろうと石だろうと、インデックスファンドや日銀のETF買いの恩恵に預かれるのだ。そこから外されることの恐怖は、安穏としてきた企業こそ感じるところだろうし、まさに今、抵抗の真最中のはずだ。


なぜ序列をつくるのか

 序列があるから優秀・劣等が生まれる。人は誰も優秀と言われたいし、優秀だからこその優遇を当事者も関係者も期待する。その線引きを曖昧にしてきた今、五を三にしたところでメリハリは生まれるのだろうか。おそらく企業の泣き言も加わり猶予期間を設定するなど、東証自身のための再編は有名無実となろう。

 せっかくの再編は優劣を残すのではなく、おもいきって新・三市場を『グローバル』『ドメスティック』『スタートアップ』にしてみてはどうか? グローバルはその名の通り、グローバル企業を中心に海外投資家にも対応した体制を整える。会計基準やガバナンス、もちろん株式の流動性も一定水準以上を確保することが前提だ。ドメスティックは国内中心に事業展開する企業で、国内の投資家に支えてもらうことを主とする。だからと言って体制を緩めるのではなく、しかし負荷をかけすぎない程度に。最後のスタートアップはIPO向けの市場というイメージ。いずれは世界か国内土着かを選ぶのだが、上場の登竜門として存在してもいい。そして三市場ともESGの最低基準を設ける。

 この冗談めかした考えは、「どんな投資家に支えられたいか」という企業視点を考慮したものだ。企業と投資家が寄り添うことが必須だと考える我々長期投資家にとって、企業が市場の優劣ではなく「どの市場が自社にとって理想か」を選べる方が良いと思うのだ。

 SPAC検討など最先端市場への刷新を図るのもよいが、資本市場は金融だけのものではないことを、今だからこそ考え直すべきではないのか。

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