見出し画像

栄養状態評価指標「MDD-W」について

栄養状態を測る指標にはいくつかあり、そのプロジェクトのターゲットや目的に応じて、最適な評価指標を選択する必要があります。

今回は、栄養改善プロジェクトのなかでも特に使われることの多い「Minimum Dietary Diversity for Women of Reproductive Age (MDD-W)」についてご紹介します。


MDD-Wとは?

MDD-Wは、2016年に国連食糧農業機関(FAO)によって、妊娠可能年齢(15〜49歳)女性の栄養状態を評価する方法として発表されました。MDD-Wでは、24時間以内に摂取した食品群の数を数えることで(24時間思い出し法、24-hour recall)、11ある微量栄養素の摂取状態を集団レベルで評価(population-level indicator)することができます。

以下の10個の食品群のうち、5個以上を摂取している場合は、最低限必要な食事の多様性を満たしていると判断されます。

International Dietary Data Expansionより引用

具体的には、15〜49歳の女性を対象に、①リスト・ベース法、もしくは②オープン・リコール法を用いて調査を行います。上の10個の食品群を順番に摂取したかどうか尋ねていくリスト・ベース法(①)に対し、オープン・リコール法では、前日に食べた食事を尋ね、調査者がどの食品群を摂取したかどうか最終的に判断します(②)。どちらの方法もMDD-Wのガイドライン上では記載されていますが、現在では②オープン・リコール法の方が推奨されています。

最終的に以下の計算式を使うことで、その集団における妊娠可能年齢女性の栄養状態を評価することができます。

International Dietary Data Expansionより引用


MDD-Wの強み

MDD-Wを用いることで、食事の多様性を測ることができるため、ビタミンAや鉄分などの微量栄養素を摂取できているかどうかを確認することができます。

「隠れた飢餓」とも呼ばれる微量栄養素欠乏は、低身長(stunting)や消耗症(wasting)とともに大きな栄養課題となっており、微量栄養素摂取を増やすことを目的とした食事の質の改善を目指すプロジェクトにおいてはMDD-Wを用いることが有効です。

また、何よりも計測方法が「摂取したか/してないか」の2択とシンプルであり(dichotomous indicator)、栄養に関する専門知識のない人にも分かりやすい指標であるため、予算や人員などに制約のある環境では使われやすい栄養状態計測指標であると思います。実際、国連世界食糧計画(WFP)や国際NGOなど、事業実施に重きをおいている組織にとっては、選ばれやすい指標の一つです。


MDD-Wの弱み

シンプルに食事の多様性の確認ができる一方、MDD-Wでは「摂取量」が考慮されないため、この点には特に注意が必要です。

例えば、前日にたくさん野菜を食べた一方、ほんのわずかしかお肉を食べていない場合でも、野菜、お肉のカテゴリーはともに摂取したものとして扱われます。MDD-Wでは、摂取の有無のみを基準に評価を行うため、少量しか摂取されず栄養への寄与が低い食品群も、摂取量が多く寄与が高くなっている食品群も、同じ1ポイントとして扱われてる点は弱点であるといえます。

このように摂取量が考慮されないことで、いくつかの研究ではMDD-Wの非有効性も主張され始めています。

例えば、ある地域では穀物から微量栄養素を多く摂取していたにも関わらず、開発プロジェクトの実施によって食事の多様性を強化したことで、野菜など摂取する食品群は増えたものの、穀物の摂取量が減少し、結果的に摂取している微妙栄養素の量が減少したという報告もあります。

これらを踏まえ、特に食事の多様性が限られている地域においては、まずは現地の人々の栄養摂取に最も寄与している食品(キーフーズ)を見極め、対象地域の人々のその食品の摂取量を把握するとともに、キーフーズを起点にした栄養改善プロジェクトをデザインすることが大切になってくると思います。

*トップ画像はWFPより。