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病気と仕事の両立支援ラボ設立にあたって

日本における働き方は、今過渡期にあり、ダイバーシティ&インクルージョンや2019年から施行された働き方改革関連法、健康経営など、従来の画一的な働き方が見直されつつあります。
しかし、私たちは本当に多様な働き方に向かっているでしょうか。

現在、育児や介護の両立支援やがん当事者への支援など、様々なサポートが行われていますが、慢性の病気をもつ当事者への支援は他の分野に比べて遅れています(※1)。今働いている人が、短期間で完全に復帰できる急性の病気ではなく、長期にわたり通院や薬が必要な、慢性の病気になったとき、安心して働き続けられる環境とはいえません。

子育てや介護は法的に保障された休暇制度が存在しますが、慢性の病気についてはそうした法律はありません(※2)。 日本においては、働き盛りの40代のおよそ3人に1人が、通院が必要な病気をもっています(※3)。 慢性の病気をもつことは、誰の身にも起こりうる、私たち自身の課題です。

慢性の病気をもつ人が自分らしく働くことができれば、私たちの目指す多様な働き方の実現に一歩近づきます。今こそ取り残されたこの領域に目を向け、本来の意味での「健康」な社会を創る時です。

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、今はDEIとして、Equity、公平の観点も重要になっています。個々人の能力の差を考慮し、それぞれに適切なサポートを配することが公平です。単に多様性だけ重視するのではなく、本当にその環境で、その人がその人らしく生き、働いていくために、勤務体制や待遇、昇進などのアクセスの阻害要因を公平にしていく取り組みが必要です。こうして醸成される真の多様性は、従業員の健康や活力を増進し、企業価値や業績の向上に寄与します。

社員一人一人が「この会社なら安心して働ける」と自然に思える職場環境と企業文化の形成こそが、まさに個人と企業を成長させるのです。

私たちは、慢性の病気をもつ当事者でつくる団体です。病気になったときに何より薬になるのは、先輩の当事者の力強い経験談や励まし、サポートです。専門家による一方的な支援ではなく、同じ体験をした仲間で体験を共有し、支え合うことで、病気と生きる力を取り戻すことができます。それを肌で知っている私たちは、病気になってもここで働き続けたい、さらには病気になった体験を仕事に活かしていきたい、社員の皆さんのそうした気持ちをサポートできます。

病気と仕事の両立は、私たち一人ひとりの生き方に関わる問題であり、それは病気をもつ人だけでなく、その隣で働く同僚、上司、友人、家族、すべての人に関わる問題です。病気をもつ人だけでこの就労問題を考えるのではなく、雇用側である企業の皆様をはじめとした多くのステークホルダーと一緒に、病気をもっても自分らしく働き続けられる社会を考える必要があると考えています。私たちは、2024年6月に「病気と仕事の両立支援ラボ」を設立し、2026年までに相談窓口や、企業間で病気があっても働きやすい会社について考えるコンソーシアムを設立します。

ラボの立ち上げに込めた思いや病気と仕事の両立支援に関する様々な動向やデータをこのコラムで発信していきます。一緒に病気があっても大丈夫といえる働き方を考えていきましょう!

書いた人:宿野部武志(ピーペックのプロフィールへ


※1 育児や介護については育児介護休業法により、仕事との両立支援が図られています。また、厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業) 分担研究報告書 医療機関における難病患者への就労支援の現状調査報告によると

「両立支援に関してはがん療養者の就労支援が先行し、医療機関と職場の協働実績が積み上げられている。一方、難病患者への支援の実態は明らかにされていない。」

 厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業) 分担研究報告書 医療機関における難病患者への就労支援の現状調査報告

とされています。


※2 病気での休業への保障として傷病手当金が存在しますが、健康保険による制度であり、一定の条件や期間的な制約があります。 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/


※3 2022年国民生活基礎調査 性・年齢階級別にみた通院者率より https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/04.pdf

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