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読書感想文11『昨夜のカレー、明日のパン』木皿 泉

河出書房新社のnoteで『さざなみのよる』と『昨夜のカレー、明日のパン』を課題図書に選んだ理由が書かれていた。

不安だったり、落ち込んだり、なんとなくうまくいかない。そんな今だからこそ、「きっとなんとかなる」と思わせてくれる木皿泉作品の温もりと大らかさが必要だと思います。『さざなみのよる』と『昨夜のカレー、明日のパン』は、間違いなく多くの人の心のよりどころになる本だと思い、課題図書に選ばせていただきました。

2冊とも読んだ。
その通り、「きっとなんとかなる」って思える2冊だった。
多くの人が感じているように、人の死が描かれているけど、ただ悲しく暗い気持ちになるわけじゃなくて、前を向こうと思える本だった。
いなくなっても確かに大切な人はいたし、いたときのことは消えないし、どこかにずっと残るよなぁと信じられる。
毎日の何気ない時間をできるだけ記憶に残したくなる。

ギフが死んじゃったらこの銀杏割り器を見て、寂しく思うのかしらなどと考えた。そう思うと、何だか、この素っ気ないペンチみたいなのが、遺品のように思えてくる。

このテツコの気持ちがめちゃくちゃ分かるんだよね。
ただ家族でこたつに入ってだらだらしてるときに、テーブルに置かれたみかんの皮を見て、「わたしがおばあちゃんになるくらいのいつかの遠い未来、みかんの皮を見たときにこうやって家族でだらけたことを思い出すのかぁ」って思う気持ち。
同じか?って聞かれたら同じと思う!としか言いようがないけど、今この瞬間って当たり前だけど永遠じゃなくて、いつか全部なくなってしまって、わたしはそのなくなった今をいつかどこかでちょっと悲しくなりながら、でも温かい気持ちで懐かしむんだろうなぁって。

「悲しい」とか「寂しい」とか、できればあまり思わずに過ごしたいから、どうにかして現状維持でこのままいたいと思ってしまう。
それは不可能で、そんなことはちゃんと分かってて、それでもこのままがいいんだよ!と思ってた。
いや、まだ思ってる。たぶんずっと思う。変化って怖い。
今持ってるものを失うのが怖いのかな。なんなのかな。
この場所しかないなんて思ってないつもりだったけど、この場所より居心地がいい場所が見つかるか分からないからこのままがいいのかもしれない。
われながら消極的選択である。

「自分には、この人間関係しかないとか、この場所しかないとか、この仕事しかないとかそう思い込んでしまったら、たとえ、ひどい目にあわされても、そこから逃げるという発想を持てない。呪いにかけられたようなものだな。逃げられないようにする呪文があるなら、それを解き放つ呪文も、この世には同じ数だけあると思うんだけどねぇ」

きっとどこかに変わりたくない症候群のわたしを解き放ってくれる呪文もあるんだろうな。
いつかちゃんと自分で見つけたいな。

いつもはミステリーとかを読むことが多いから、同じ本を何度も読み返さないことが多い。
でもこの本は「変わるの怖い~!!いやだ~!!」ってなったときにまた読もうと思う。
一人で自分を立て直すためにとても役立ちそうな本。
できない無理はしない、どうにかなるってなんとなくでも思えることってすごく大切なんじゃないかな。


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