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ヒトイネ
こんな夢を見た。
空梅雨に憂いた村人たちが土の割れた田んぼに人柱をたてようということになる。
ひと柱は水神を鎮めるものだのに水が欲しくば他にやりようがあるものだが黙って見守るしかない。
いちばんはじめにむら境の地蔵をこえてはいってきたよそ者を埋めることになる。
はたして一人の娘が母親のほしがる蜜柑を手に入れるためにとなり村より境をこえてはいってくる。
娘はたかく立てた櫓のうえに括りあげられ、左手に蜜柑を握ったまま逆さ吊しで深く掘りさげられた穴のなかにきえて仕舞う。
はたして翌日からざざんと雨がふりつづき田んぼは青々とした稲葉におおわれる。
だがどうもいっか所だけ稲が生えない。
どうやら娘を埋めたあとにだけ稲が根づかないようだ。すべて茎が黒くくさり落ちてしまうのだという。
黄金の穂が揺れ収穫のときがちかづくと一人の老婆があらわれて村人に問い掛ける。娘に蜜柑が食いたいとたのんだのだがまだ来ない。いったいどこへいったのだろうかと捜し回っている。
村人は稲の根付かぬ田の一角を指差して、
あそこにうずまっているよ、稲柱になったき
としょうじきに答える。老婆はなき崩れ、わしが蜜柑なんぞ頼んだばかりに娘が人稲になってしまった、ああ憎い憎い蜜柑が憎い
ばったりたをれて息たえた。
するとあのいっかくから木の芽が顔をだし、みるみるうちに育ちあがってたわわに蜜柑のみのる樹になった。
蜜柑にはすべて
「親のこころこ知らず」
という文字がきざまれていた。
まもなくすべての稲穂は武家の顔をした疫虫の害にあい全滅した。
村人たちはただいっぽんの大樹からとれる蜜柑を食って、いき永らえることができた。
娘は茶色い稲穂より紅い蜜柑になりたかったのだなとおもうと目が覚めた。
了
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