剣と魔法の現実社会

剣と魔法しかない世界にやってきた。

まず朝食の準備だ。薬草を15種類混ぜて、呪文をとなえて30分。これが「火焔の魔法」。やっと火のついたかまどに素焼きの壷を置いて、こんどは「ほっかほっか朝いちばん!」と叫びながらぐるぐる走り回る。これが「クノールカップスープの秘法」。ぶりゅぶりゅと壷の中にわきあがる黒い液体・・・しまった、まちがえて「ドトール」をとなえてしまったようだ。まあいーや、と大剣ひきずり狩りに出かける。早速どでかい爬虫類を発見。頭に刺青された数値と自分の腕に彫り込まれた数値を比較、よし勝った。ドタマかち割ってモモ肉をずばり、さあて帰ってまたまた「火焔の魔法」。30分間待たされたあげく、かまどからは「洪水」が!シマッタまたまた間違えた!濡れた薪に火はつかず、表で焚き火。やっとこさ炙った肉、これが

マズうー!!

やっぱりレベルの高い魔物でないとまずい。大味で栄養もない。ぺっ、ぺっ。「ブラウンミクロン!」髭が剃れる。「サンスター!」しゃかしゃかがらがら、と「歯磨きの呪文」、これだけは何故か直ぐに決まる。スーツをまとって、さて会社だ。減りきった腹を抱えながら駅へ向かう途中、向こうから聖書を抱えたローブの男がやってくる。アブナイ、宗教の勧誘か?

「仲間にしてください」

やだよ。ホームに登る途中、剣と剣がふれあって斬り合う連中を尻目に、「コンパクトの呪文」で小さくした大剣をポケットに。やがて来た「電車」に乗り込む。電車とはいうものの、「エジソンの呪文」によって動いている魔法の箱だ。さて今日は出張である。「出張届けの踊り」を踊って課長印を貰う。羽田にいくと巨大な(ジャンボ)竜がたくさん蠢いている。しっぽにカンタスと書いてある竜に乗り込む。

「ぐえーっ」

ビジネスクラスは腹側にぶら下がるから比較的楽。エコノミーは大変だ。なぜなら尻尾にぶら下がるから、揺れる揺れる。

「ひえー」

おちてく奴等がひっきりなし。そのうえ竜のやつぼたぼた糞をしやがるから、ひっかかるし臭いだろうなあ。ちなみに背中がファーストクラスだ。スチュワーデスの妖精がやってくる。小さくて何を言っているのかわからない。どうやらシートベルトをつけろと言っているらしい。困った。「シートベルトの呪文」を忘れた。隣の魔道師に聞くと「修行が足りん」と闘いを挑まれる。しまった、剣をポケットに入れたまま、スーツも預けてしまった。仕方なく奥の手を使う。両腕交互にひらひらしながら、腰を左右に振り振り振り振り、舌で鼻の頭を繰り返し舐めるこれが「魔力吸収」すなわち「ふしぎなおどり」!だがきかない。あ、黒目を左右に開かないといけないんだった。これが難しい。

どか!

「ボンバー」を受けて雲の中、まっさかさまにおちていく私は思った。

ファンタジーって矛盾だらけだ。

2000/11/21(tue)

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