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働きたくない:メタファー

 ぽかぽか陽気の頃、私は仕事で取引先に向かうために、地元の駅にいた。そこに、小学生からの知り合いである女性がやってきた。彼女とは小中高と同じで、お互いに恋愛感情を抱いたこともなく、付き合っていたことも当然なく、仲は悪くはないがよいという感じでもなく、お互いに顔見知りというだけなのだが、まだ地元に住んでおり、利用する駅も同じということから、今でも偶に会うことがあり、ときには数分程度世間話やお互いの状況を話す程度の間柄だ。

 彼女は既婚者で、幼稚園児の子供(娘)がいる。勿論、私との間にできた子供ではない(笑)。娘を連れた彼女と出会うこともあったので、どんな感じの娘かも知っている。彼女の配偶者を私は見たことはなかった。結婚式には呼ばれてもいないし、そもそもその程度の交友でしかなかったからだ。

 その日、彼女は娘の遠足の関係で、娘とは別行動でその遠足の場所に向かうということだった。私の向かう駅と偶然にも同じということで、一緒の電車に乗り、その駅は地元駅から20分程度の所だったので、普段よりも多めな会話を彼女とすることになった。

 といっても、ほぼ一方的に彼女が娘のことを話す形で、私は時折「へぇー」とか「ほぉ」という相槌を打ち、その相槌の数回に一回、「娘さんは趣味とかあるの」だとかいう平凡な質問を申し訳程度に挟むだけだった。

 私の向かう取引先は、到着した駅から徒歩5分程度だったが、これまた偶然にも彼女の娘がいる遠足の場所がその経路の途中にあるということで、暫く二人で歩いていた。傍から見たら、スーツを着ている私と彼女が夫婦に見えたことだろう。私が第三者としてそのときの私達を見たなら、同じように思ったことだろう。

 遠足の場所というのは公園だった。遠足に使うような公園ではない。住宅街の中にある公園で、その割には大きめではあるが、園児が集って何か特別なことをするといった用途に向いている公園ではない。遊具が公園の広さの割には少なく、どちらかと言えば、広めの空き地に遊具が少しだけあるといった見映えの所だった。

 私はそんな所で遠足が行われているということを特に不思議には思わず、取引先への途中の場所で見慣れた風景の公園だったことや、少しだけ時間の余裕があったことから、彼女からの「一緒に少し見学しよう」という言葉に頷き、暫くぼんやりと彼女の娘やその他の園児達の遊んでいる様を眺めていた。

 少しすると、幼稚園の先生と思われる人達が園児達を整列させ、表彰式が始まった。どうしてこのような場所で表彰式が行われるのか不明だが、全くの赤の他人である私も、何故か保護者の人達と一緒にその光景を目に焼き付けるという作業に加わっていたことも、今から思えば不可思議を通り越している。

 園児達はその年令に似合わず、まるで軍隊のように綺麗に整列し、私語も話していない。幼稚園児なのに、その統率された動きや振る舞いに自然と引き込まれていたのかもしれない。

 彼女の娘も表彰された。何に対しての表彰なのかは聞き取れなかったが、横にいた彼女は大喜びしていた。対照的に表彰された娘の方は冷静なのか、賞状を受け取ると少し母親の方に顔を見せたが、喜怒哀楽を表している表情とは言い難く、かといって能面のような無表彰でもなく、淡々と一連のイベントをこなしているといった感じだった。

 という場面で目が覚めたんですよ。ええ、夢だったんですけどね。妙に生々しかったというか。私はよく夢を見るからか(眠りが浅いんでしょうね)、起きてから暫くは夢の内容を憶えていることがあります。印象にかなり残る夢もあったりして、たまに憶えている範囲で書き記すこともあります。

 大抵の夢は、私に絡むような登場人物は知り合いということが多いのですが、この夢に出てきた小学校からの知り合いの彼女ですが、全く知りません。実在しません(笑)。ただ、夢の中の私は、最初に書いた設定というか情報は当たり前の過去の記憶として持っており、彼女との関係性についても何ら疑問もなく受け入れているのです。

 こういう夢を見るというのは、何かしらのメタファーなのかなと。こういう感じの、全くの見ず知らずのニューキャラクターが自分との過去の一部を共有していて登場するという夢は自分にとっても珍しく、起きてからも暫く内容が脳内に残っていたので、今回、書き記しました。

 幾ら昔からの知り合いであっても、付き合った経験はおろか、特に交友関係を結んでいたわけでもなく、行き先が少し被っていたからといって、その人の子供の遠足とかに同行するわけはないですよね。いや、過去に何かしらの関係があったり(付き合ったり)しても、今は無関係なのだから、同様ですよね。過去に何かあれば、余計に一緒に行くことはしないでしょう。

 私の地元の駅は乗降数もかなり多く(政令指定都市内でもトップクラスです)、利用者もかなり多く、元々地元民も多い区域なので、小学校との同級生とすれ違うなんていうことはあります。ただ、今は交友関係もないそういう人達と話すことはありませんし、すれ違ったあとに「あの人、小学校の同級生だった◯◯じゃなかったかな」と思う程度で、すぐに忘れるような日常の風景でしかありません。

 自分にとっては日常の出来事的で大きなイベントが展開されるわけではないのですが、逆にその日常的なイベントが少しズレている所が不可思議に思えたので、起きてからも印象に残っていたのかもしれません。

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