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ワガママになれ

 これは、新入社員として入社した直後に言われた言葉です。
 無理もありません。就職する前まで実家暮らしで、外出の時しかヘルパーを利用したことがなかった私にとって、何かと気を遣ってしまうのはごく自然なことでした。
 私が就職したのは障害児・者を対象にした介護事業所です。事務職でありながら、当事者ユーザーとして「ヘルパーを利用した生活の良さを自分の言葉で伝えていくこと」を求められていました。そして、採用に至る際に「将来の1人暮らしを前提に、先頭に立って自社のヘルパーを育成してほしい」と言われていたのです。

「ワガママになれ」と言われても、すぐに実行することができませんでした。家族ではない「他人」が常に横にいるという、これまでとは大きく異なる環境の中で、自分が頼んだことをやってもらっているのに、休んだり別のことをしたりするのは申し訳ないと本気で考えていました。こうした考えを払拭するのに3年ほど時間を要しましたが、ヘルパーを使い慣れている方からすれば、制度を使いこなせていないと思われるかもしれませんが、常に人に見られながら生活すること自体に、最初はとても抵抗があったのです。

 今思えば、こうした言葉は「もっと自分らしく生きていい」というメッセージだったのだと思います。事業所が大切にしていたのは、ヘルパーも利用者もその人らしく個性や尊厳を尊重された中でサポートし合うという考え方でした。すなわち、お互いをリスペクトする気持ちさえあれば、代わりに買い物を頼もうが、利用者である私がヘルパーの横で昼寝をしようが、そんなことは大きな問題ではありませんでした。おまけにそこは、利用者の家ですからね。
 気付くまでに時間はかかりましたが、それからは“ON”“OFF”という言葉をよく使って説明するようになりました。
 私がスイッチON=忙しい時はヘルパーもONになってテンポ良く動いてほしい。反対に、私がスイッチOFF=ゆっくりしたい時には、次の行動をせがまず、落ち着いて待っていてほしい。こうして、利用者と行動や気持ちを一致させることが良いヘルパーになる近道だと根気強く伝えていったのです。

 当初はうまくいかないことも多くありましたが、根気強く伝え続けた結果、今では私が休んでいる間でも天候が悪くなった時は率先して洗濯物を取り込んでくれる等、“利用者OFF”“ヘルパーON”のアレンジバージョンもできるようになりました。その間、ヘルパーからは「待機をしているだけで給料をもらっていいのか」と律儀な質問をされたこともありましたが、「待機中の見守りが、次の仕事の予測につながる」と説明を続け、不安に思う方はなくなりました。

 ワガママになるのも大変だなぁというのが、当時の私が感じていた偽らざる思いです。

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 ヘルパー同伴生活10年を超えた今の私が思うこと。

”利用者ON” ”ヘルパーOFF” のシチュエーションも全然あるな、と。

むしろその時間が年々長くなってきたという感じです。

極限の集中力を発揮したい最中、横でテキパキ動いて下さってても全然集中できないのよ(笑)

有難い悩みですがね!

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