幸福度MAXな5分間

「やったぞ!遂に、遂に完成だ!!」

博士は叫んだ。それはそれは嬉しそうに、アコースティックギター程度の大きさで、レバーとボタンが一つずつ付いた、アンテナのようなカタチをしたマシンの周りを、小躍りしながら回っている。

「ヤッホー!これで俺は天才科学者と崇められ、どこぞの国の王様も、核爆弾のボタンを持つ大統領も、大好きなあのスーパーアイドルも、みんな俺に近づいてくるだろう。このタイムマシンと設計図さえあれば。女!金!名誉!女!金!名誉!いやいやいやいや、お前もご苦労だった。お前という優秀な助手を持てて俺は誇りに思うよ。本当に今まで長かった。使えねぇバカ!と罵られ、随分と長い間、俺も我慢してきたものだ。やっとだ、やっと俺の我慢が報われる、ざまぁみろ!」

助手は深く頷いた。

随分と長い間研究してきた。映画、漫画、アニメに様々なタイプで登場し、物語の大きな鍵となるタイムマシンの研究を。

思考は現実化する、と誰かが言っていた。そんな言葉を信じていたかどうかわからないが、博士はタイムマシンを世界で最初に完成させるのは自分だと信じて疑わなかった。

研究に没頭し食事を忘れることなど日常茶飯事。失敗、失敗の連続で周囲に当たり散らしたこともあった。そして、助手は次々と辞めていった。

髪の毛にとどまらず水晶体までも白くなり、体力も衰えてきた頃、40も歳の離れた男が助手を志願してきた。男はアルビノだった。肌は新雪のように白く、髪の毛も白く長い。美しい目が訴える、異常なまでの情熱に押されたカタチで博士はその男を採用した。博士はアルビノではなかったが、自分とその男の容姿が似ており、親近感を覚えたことも採用理由の一つであったのかもしれない。それが今の助手である。

ありえない失敗を仕出かすことが度々あり、博士が助手にひどい言葉をぶつけることもあった。しかし、助手は辞めずにずっと博士の元にいた。

ある日の深夜、研究所から大きな音がした。博士が研究所に行ってみると倒れてバラバラになった実験間近のタイムマシンと真っ青になった助手がいた。

「申し訳ございません。少し動かそうとしたら倒れてしまって。。。」

「実験間近なのに何やってるんだ!君には直せないだろ!」

設計図は博士しか知らない秘密の場所に隠してあった。どこから大切な設計図のデータが漏洩するかわからないからだ。博士が一人で設計図を見ながら直していると、助手が勝手に大切なパーツを違う部位に入れようとした。

「設計図も知らない癖に触るな!バカ!!。。。。。。いや、良い、良いんだ。そのままで良い。大きな声を出してすまなかった」

設計図とは違っていたが、このパターンもあるかもしれない、と博士は思った。

実験の日を迎えた。結果は大失敗だった。タイムマシンの実験結果としては。だが、博士は少し興奮していた。

「君、これはちょっと面白いかもしれないぞ。この方向で進めてみよう。きっかけは君だ。この設計図は今日から君と共有する。早く一緒に完成させよう」

「はい!博士!」

助手はひどく嬉しそうだった。その日から博士は続きの研究を進めた。

博士は知っていた。あの日の深夜、助手が実験間近のマシンをバラして設計図を起こそうとしていたこと。バラしてみたものの元通りに戻せず、設計図も未完に終わっていたこと。それから数ヶ月後。

「できた。完成だ」

「ホントですか!博士!おめでとうございます」

「疲れたから少し休ませてくれ」

助手は素早く行動に移した。まずは設計図を入手した。入手したといっても、そもそも共有されているもの。無造作にデスクの上に置いてあったコンピューターから最新の設計図データをコピーしただけだ。そして、興奮のあまり叫びそうになったが休んでいる博士が起きて来るとマズいので必死に気持ちを抑え込んだ。が、心の声は漏れていた。

「ここで失敗する訳にはいかない。何年あのバカ博士にくっついて来たと思ってるんだ。バカ博士に罵られ続けても耐えてきたのは、この瞬間の為だ。途中、このジジイにタイムマシンなんて作れるのか?と諦めかけたが、まさか本当にできるなんて!我慢した甲斐があったってもんだ。さて、この設計図データを持って、タイムマシンは5年前戻る設定で良いかな?レバーを5年前にして。で、ボタンを押すと5年前にタイムトラベルだ。そうすると、5年前に俺が世界初のタイムマシンを作ったことになる。そう、俺が天才科学者だ。バカ博士よ、結局のところ、実は俺が博士でお前が助手だったのだよ」

すると、急に博士が助手の前に現れた。助手は慌ててマシンのボタンを押した。

「やったぞ!遂に、遂に完成だ!!」

助手は叫んだ。それはそれは嬉しそうに、アコースティックギター程度の大きさで、レバーとボタンが一つずつ付いた、アンテナのようなカタチをしたマシンの周りを、小躍りしながら回っている。

「ヤッホー!これで俺は天才科学者と崇められ、どこぞの国の王様も、核爆弾のボタンを持つ大統領も、大好きなあのスーパーアイドルも、みんな俺に近づいてくるだろう。このタイムマシンと設計図さえあれば。女!金!名誉!、女!金!名誉!いやいやいやいや、お前もご苦労だった。お前という優秀な助手を持てて俺は誇りに思うよ。本当に今まで長かった。使えねぇバカ!と罵られ、随分と長い間、俺も我慢してきたものだ。やっとだ、やっと俺の我慢が報われる、ざまぁみろ!」

博士は深く頷いた。助手がボタンを押してからジャスト5分経過。助手が叫ぶ。

「やったぞ!遂に、遂に完成だ!!」

実験は成功した。もちろん、このマシンはタイムマシンではない。“記憶だけ元に戻るタイムマシン”とでも言おうか。マシンのボタンを押した瞬間、マシンから脳を刺激する電磁波が放出され、その瞬間が記憶のスタート時点であると脳に定着させる。ボタンを押してからジャスト5分で、脳は記憶のスタート時点に戻ってしまい、それが繰り返されるというマシン。どうしてこんなマシンができたのか?なんの役に立つのか?博士自身もわからない。今、助手は5年前に戻ったと勘違いし、みずからの欲望を満たすであろう未来を想像し興奮状態。一番幸せな状態といっても良いかもしれない。マシンのボタンをもう一度押すと、記憶のスタート時点はリセットされるはずである。その実験結果はいつ出るのだろうか。助手にとって、幸福度MAX状態の5分間が延々と続く。もう一度ボタンを押すか、助手の肉体が限界を迎えるまで。

「君、最高じゃぁないかぁ〜〜」

助手の様子を見ながら恍惚の表情を浮かべる博士。博士がマシンのボタンを押すことはないだろう。

何度目かのジャスト5分が経過。助手が叫ぶ。

「やったぞ!遂に、遂に完成だ!!」


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