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〈短編小説〉あれからの話だけど Bonus track 第12話


 今度海に行こう、と優美に誘われるままに頷いて、カフェの休みに合わせて海へ行くことになった。場所は優美の実家がある地元の近くの海で、田舎の海辺だ。実家に連れて行くつもりじゃないから安心してね、と念を押された。

 お互いに休日が重なり、優美の部屋に集まってコーヒーを飲んでいた。近くのケーキ屋で買ってきた三種類のケーキを二人で分け合う。

 漁港以外に取り柄のない海だけど、と優美は言った。

「なにもないのが心地良い海だよ」

 ホテルは優美が予約を取ってくれた。海が目の前にあって、部屋から海が見えるらしい。

「でもなんで海なの?」

「うーん、まだ夏じゃないから?」

「夏になったら行きたいんじゃなくて、夏になる前に行きたいってこと?」

「そうかもね、夏になっちゃうと夏のために海に行くことになっちゃうから。私たちはなにもしないために海へ行くの」

 優美は目的があって海に行きたいわけではないらしかった。ただ、ここではないどこかへ行くための場所が海なのだと僕は思った。

「いいね。たまにはそういう旅もしてみたい」

 この旅の中で優美のなにかに触れられればいい。なんとなくだが、焦ったところで優美と僕がどうあるべきなのかすぐに分かるとは到底思えなかった。




(第13話へ続く)


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