日記・裸足で海まで歩く

 昔、裸足で家から海まで歩いていったことを最近思い出す。

 裸足、というのは本当に裸足も裸足で、靴も靴下も履かず、その時の衝動で外に出て、わけもなく、海、と思って歩いていった。

 夏になる前か、あるいは夏が過ぎた頃か、時期は定かではないが夏ではなかった気がする。家の目の前が海、というわけでもなく、徒歩10分というわけでもなく、普通であれば車で行くべきくらいの道のりだった。

 足の裏はそこまで痛まなかった。ただ遠い道のりを歩き続けたので疲れた。

 夜の海は肌寒くて風が強かった。波がどこから来るのか、夜目に慣れても見えなかった。うっかりするとその海に吸い込まれてしまいそうで、浜辺も波打ち際までは近づけなかった。

 思っていた以上に海辺は寒くて、海に着いてすぐに帰ることにしたが帰るにもそれなりの道のりで、家までしばらく歩くのは間違いなかった。でも歩いて帰る他なかった。

 眠ることなく歩いているとだんだん夜が明けてきた。家に着く頃には朝になっていて、その日のそれより先のことは覚えていない。

 そのことを最近になってなぜか繰り返し思い出している。歩くことが自分にとってなにか救いのようなものだったのかも知れない。歩いている間は目的地に向かって黙々と歩く他なく、それはあらゆる不安を忘れさせ、前進する感覚に身を委ねられる術だった。



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