「天下一の桜と伊那ローメン」”ソロの細道”Vol.20「長野」~47都道府県一人旅エッセイ~
日本人にとって”桜”は最も愛されている花ではないだろうか。
毎年日本全国で花見が楽しまれていて、多くの人で賑わっている。
そして全国の「名所」と呼ばれる場所には、各地から見物客が押し寄せ、桜を見に来ているのだか、人込みを見に来ているのかわからない、という声も聞こえたほど。
特にコロナ前まではインバウンド客も多く、大変な混雑になっていたという。
そんな桜は「春の到来」とセットで語られることが多い。有名な児童曲の中でも「桜咲いたら一年生」という歌詞で歌われているように。
しかし実は私の故郷である沖縄では、桜が咲くのは1月。”一番桜”と呼ばれていて、日本で最も早い桜の開花が見られる。
つまり沖縄の花見は1月なのだ。気温としては20度近くになる日もあるので、気候としてはそれほど冬を感じないのだけれど、1月は1月。
桜=春、という意識はあまりない。
ちなみに沖縄の小学校では、前述の曲の歌詞は「デイゴ咲いたら一年生」という替え歌で歌われているというのは、また別の話。
このように幼い頃には桜にそこまで親しめていなかった私ではあるが、大学進学で関東に出てきて、よく遊びに行っていた場所が上野だったこともあって、いつしか毎年上野公園で花見に興じるようになっていた。
そして社会人になってからは、会社の近くにあった新宿中央公園に場所は移ったものの、毎年の楽しみは相変わらず。
とはいえ、多くの花見客がそうであるように、花より団子、花よりお酒、花より皆と話すこと、騒ぐことが目的だった。
そうしてよくよく考えてみると、私の人生において「桜を見るため」を主目的とした旅というのは、これまでやったことが無かった。
そんな私が遂に動いたのが、今年。
会社の休みと桜の開花のタイミングが合致していたこと、そしてまだまだ続くインバウンド客の観光自粛で混雑が緩和されているはずだという推測が出来たこと、その二つが私を動かした。
向かったのは、「桜を見に行くならここに行きたい」と考えていた場所の一つであった、長野県の高遠城址。
城好きの身としては、どうせ桜を見るならやはり「お城と桜」をセットで見たいと思うもの。
そう考えると候補は高遠城址か弘前城、高田城址などが候補になる。
余談だが、「日本さくら名所100選」のうち、お城に関連する場所は20ヶ所もある。
それだけ「お城と桜」が人々の心を動かすのかもしれない。もちろん、お城に桜を植えられることが多いという歴史的背景もあるのだが。
本題に戻ろう。
高遠城址公園に向かうには、JR飯田線の伊那市駅からバスに乗る。
シーズンになると新宿駅や茅野駅からの直行バスも出ているが、訪れた日はそのシーズンインの前日だった。だからこそ混雑が無いだろうと狙ったのだけれど。
伊那市駅から30分ほどバスに揺られ、到着したのは高遠駅。駅ではあるがバスターミナルであるし、歴史的にこの場所に鉄道があったことは無いのが面白い。
バスを降りて高遠の城下町を歩いて通り過ぎ、15分ほどで到着したのが全国的にも名高い桜の名所、高遠城址公園。
高遠城は、大河ドラマの主人公にもなったことのある幻の名将・山本勘助(山本菅助)が改築した城であり、一時期は武田勝頼が城主を務めていたことでも知られている、日本100名城の城。
廃藩置県で廃城となった後、あまりに荒れ果てたこの地を旧藩士達が公園として整備し、その際に植えた桜が今や名物になっている。
その高遠の桜は、「タカトオコヒガンザクラ」と呼ばれる固有種。
その小さめの花びらがビッシリと咲き乱れる姿が見事で、1500本が作り出す桜模様は「天下第一の桜」とも評されているのだ。
今回初めて訪れたが、本当に見事。これこそ「桜を見に来た」甲斐があったというもの。
ちょうど満開になる直前のタイミングではあったものの、それでも一部で見られた桜吹雪は、見慣れた上野公園や井の頭公園などとは全く違っていた。
いやあ、本当に綺麗だった。
桜まつり開催の前日、かつ平日ということで人出がそこまでだったのも良かったポイント。
一面の桜を見ながら屋台でビールやお焼きを楽しむことが出来た。
「個人的死ぬまでに行きたい場所100選」にも選んでいた高遠の桜、一度では足りず、死ぬまでに何度でも見に来たいと強く誓った。
余談だが、実は新宿中央公園にも「タカトオコヒガンザクラ」が数本あるようだ。
高遠町との友好記念の記念樹として寄付されたもののようで、社会人3年目までは毎年新宿中央公園で花見をしていた身としては、こんな縁があったのかと驚いてしまった。
高遠城址の桜を満喫した後は、伊那市にバスで戻り、伊那市の名物を食べに行く。
伊那市のご当地グルメといえば「伊那ローメン」。
いわゆる”B級グルメ”にあたるわけだが、そのご当地B級グルメが大好きな私にとっては外せない一品。
朧気な記憶では、10年以上前に仕事で伊那に立ち寄った際に食べた気もするものの、ほとんど記憶に残っておらず。今回満を持しての実食となる。
ローメンでの有名店はいくつかあるのだが、私のこだわりとしてやはり元祖、つまり発祥のお店が最優先。
というわけで(ほぼ)初のローメンは、元祖ローメンのお店で食べることにした。
そもそもローメンとは?という話をしておくと、太目の中華蒸し麺にマトン肉や野菜を使った五目そばのようなもので、「スープタイプ」と「焼きそばタイプ」の二つが存在している。
そして最もユニークなのが、どのお店でも味が薄めで提供され、各席に揃えられたテーブル調味料で自由に味付けをするということだろうか。
今回伺った元祖の店はスープタイプ。
つまり五目ラーメンのような感じだが、運ばれてきたローメンを食べてみると確かに味が薄い。
というわけで味付けにチャレンジする。
テーブルには醤油、お酢、ラー油、おろしにんにく、ソース、ごま油、七味唐辛子が勢揃い。
先に届いた向かいの席のおっちゃんの作法を横目で追って、ローメンの食べ方をチェック。
なるほどなるほど。こうして食べるのか。
というわけで届いたローメンにまずはソースとお酢、そしてゴマ油を入れてかき混ぜいただく。
なるほど。こういう味なのか。
マトンの臭みをよく煮込んだキャベツの甘みで調和している感じで、なかなか美味しい。
口コミを見る限りだとスープタイプよりも焼きそばタイプの方が美味しいようだが、このスープタイプも十分美味しいので、せっかく伊那に来たなら是非食べてみて欲しい料理だ。
次は焼きそばタイプに挑戦してみたいところ。
さてせっかく伊那市まで来たのだから、これだけでは終わらない。
実はもう二つ、行きたいお店があるのだ。
しかしさすがに3軒ハシゴは時間的にも胃袋的にも無理で、ソースカツ丼が名物のお店は諦めて、あの伊集院光氏も通うという餃子のお店で〆。
このお店、ラジオでも度々触れられていて、何年も前から「伊那に行ったら絶対に寄ろう」と心に決めていたお店。念願叶ったということだ。
注文は焼き餃子に水餃子、そして瓶ビール。
焼き餃子は小振りだがしっかりと野菜の甘味を感じる餡で、素朴ながらビールが進む美味しさ。
そして一見するとラーメンやワンタンメンのような水餃子は、チャーシューやメンマ、ナルトもついてお得感もあり、これが非常に美味しい。
スープは優しい味付けでほっこり。
ここでしか食べられない餃子、是非ご堪能あれ。
なお、ご主人が一人でやっているため、提供までの時間はだいぶかかる。
この日も先客は2組だったが、30分くらいは待った。
古き良き街中華と言える店内の雰囲気に身を任せながら、瓶ビールを飲みつつのんびり待って楽しむのが最高。
それにしても伊那市グルメ、おそるべし。
「花より団子」でもなく、「花も団子」も楽しめる伊那市。
また高遠の桜⇒伊那市グルメの流れは堪能したいと思う。
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