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「大雨の大井川鉄道」”ソロの細道”Vol.22「静岡」~47都道府県一人旅エッセイ~

日本各地には様々な”吊り橋”があるけれど、最も人気があるのは静岡県にある”夢の吊り橋”ではないかと思う。

もう名称からして凄い。”夢の”なのだ。しかしそれは決してオーバーでも無く、一度実際に見た人は「確かに」と納得してしまうような魅力がある。

そんな名所の事を私が放っておけるわけもなく、会社の休みを利用して静岡旅を計画。数日の静岡旅行の最終日に選んだのが、”夢の吊り橋”や”奥大井湖上駅”がある、大井川鉄道(鐡道)での鉄道旅だった。


大井川鐵道では色々な見所があるが、そのうちの一つがきかんしゃトーマス。

元々はSLが目玉だったものにトーマスが加わり、日本中から子供達が殺到。

大井川鐵道大井川本線の終点である千頭駅では、複数のキャラクターを見学できるのだ。

とはいえコロナの影響でだいぶ縮小していて、平日かつ大雨のこの日は中止になっていた。

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大井川本線自体はやはりSLが見所だけれど、この日はSLも運行休止。外はずっと雨である…。

前日のうちに購入しておいた二日間の乗り放題きっぷは、大井川本線とその先の井川線、そして寸又峡温泉行きのバスも全て乗り放題。

値段はなかなかするが、沿線を満喫するには必須だろうか。



トーマスを見終えた千頭駅から、まずはバスに乗り換えて寸又峡温泉へと向かう。

千頭駅からバスに乗り換えて40分ほど険しい山道を進み、寸又峡温泉へと到着。

今回はそこで宿を取っているわけではないため、大きなリュックを背負ったまま、更に歩いて30分で到着したのが、世界的にも有名なスポットになった”夢の吊り橋”だった。

普段はかなりの人手でだいぶ待たされると聞いていたが、”コロナ×早朝×雨模様”ということで、辿り着いても誰一人居ない。

そして歩いているうちに晴れてきて少しだけ晴れ間が覗くという幸運!

残念ながら晴れたとはいえ先程まで雨が降っていたこともあって、写真などで見るターコイズブルーの綺麗な水面というわけには行かなかったけれど、肝心の吊り橋は独り占めで、好きなだけのんびりと歩いたり、橋の真ん中で立ち止まって写真撮影をしたりと、これはこれで充分満足出来たのだった。

しかし写真に撮ると、結構ターコイズブルーに見えるから不思議。


ちなみに夢の吊り橋は「世界の徒歩吊り橋10選」に選ばれていて、日本からはもう一ヶ所、四国・祖谷のかずら橋も選ばれているが、実は数年前に行ったかずら橋も早朝×雪という条件で、同じく独り占め出来たことを思い出した。

やはり早起きは三文の徳である。

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吊り橋を満喫したあとは、巷では「地獄の階段」などと呼ばれるかなり険しい階段を登りつつ、道中目の前に出現したカモシカに驚きながらも歩いて1時間弱で寸又峡温泉街へ到着。

その頃にはまた雨足が強くなって来たこともあり、ちょうど10時になり開いた町営の露天風呂「美人づくりの湯」に一人で入って体を暖め、最後に蕎麦屋でカツ丼を戴いた。

やはり観光客、特に海外客が激減して経営は厳しいようで、それでもとても温かく迎え入れてくれてとてもほっこりさせてもらった。

いつまでも頑張ってほしいと心から思う。

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バスで千頭駅に戻った後は、大井川鐵道井川線、通称「南アルプスあぷとライン」に乗り換えて、大井川鐵道終点の井川駅と、途中にある奥大井湖上駅へと向かう。

ただ出発前に車掌から「この後の雨次第ですけど、もしかすると電車が止まるかもしれないんで、その覚悟があればお乗りください」と不吉な言葉が。

一応もしもの際はバスが出るところまで歩けるということを確認し、覚悟を決めて乗ることに。

実際電車が走り始める頃にはかなり雨足が強まっていて、乗る乗客も他にもう一人だけだった。


そんな中で電車は走り出す。

途中、奥大井湖上駅を通るが、あまりに雨が凄いので一旦乗り過ごし、そのまま終点の井川駅へ。

もうどしゃぶり。

往復する時間まで雨ガッパを着て近くを散策するも、大雨で井川ダムは全く見えず、仕方なく駅舎で雨宿りすることに。

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そして一時間後に出る戻りの列車に乗り、途中で尾盛駅という車道も歩道も全く無く電車でしか辿り着けない秘境駅を通過して、再度奥大井湖上駅へ。

雨が少しは弱まったことを確認し、雨ガッパを再度着て電車を降りる。


奥大井湖上駅は絶景駅として有名。また最近では「奥大井恋錠駅」として恋愛スポットとしても売り出している。

ここも本来はコバルトブルーの湖(ダム)の中にあるはずだが、どしゃ降りで水面はかなり濁っていて、夢の吊り橋のときにはうっすら感じた水色は全く無く…。

しょうがないので鉄道橋の横の歩道を歩き、そのど真ん中で通過する井川方面の最終列車を間近で観察した後、折り返してくるその列車を待つこと一時間。

誰も居ないロッジの中で一人、雨が静かに降るのを眺めていた。

ふと聴きたくなって映画「天気の子」のサントラを流すと、まるでその映画のワンシーンのようで、それはそれで贅沢な時間。

奥大井湖上駅、普段は大勢の観光客で賑わう人気スポットを独り占め。まるで時に忘れ去られたかのように佇んで、最終電車に一人乗り、千頭駅まで戻るのだった。

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折り返してきた井川線で千頭駅まで戻り、金谷方面の最終電車を待つ。

駅員に「雨大丈夫ですかね?」と尋ねると「今のところ大丈夫です」との返事。

出発時間まで一時間ほどあったので、その駅員に近くで開いているお店を聞いて、駅の近くの居酒屋で飲むことにした。

するとどうだろう。

そのお店で常連と打ち解けつつ刺身と玉子焼きを肴に日本酒を飲んでいたら、慌てた様子でお店に先程話していた駅員さんが僕を探しに入ってきた。

何でも大雨で倒木があり一部区間が通行止めになったため、途中駅までバスを運行することになったとのこと。

そしてなぜかそのバスが元々の電車の出発時間より20分も早く出発するとのことで、私を慌てて呼びに来てくれたようだ。

こうして一人一人の乗客をケアしてくれて嬉しいと思ったら、バスに乗ってみて分かったのはそもそも他に客が居ないから、ということだった。

そんなこんなで何とかバスで家山駅まで辿り着き、そこから最終の電車に乗り換えて大井川鐵道始点の金谷駅へ。

そしてようやく静岡駅まで辿り着いたのが20時半過ぎ。静岡旅を無事に終えることが出来た。


しかし考えてみると、駅員の配慮が無ければ大雨の山奥に閉じ込められ、翌日からの仕事に間に合わなかったのだ。

そういう意味では、私が駅員にわざわざ話しかけ、また教えてもらったお店で律義に飲んでいたからでもあるし、教えてくれた駅員がバスの運行担当にもなったからということでもある。

一つでも欠けていれば、閉じ込められていたのだ。


静岡駅から乗った東京への新幹線の中でその事実に気付き、少し怖くなるとともに、改めて機転を利かせてくれた大井川鐡道の若い駅員に、感謝したのだった。

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