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人事こそROIへの意識が重要だと思う

1月に初のnoteを書いて以来、2回目がなかなか書けず、その後、世の中がなかなか大変な状況になってしまいましたが、改めて、ゴールデンウイークで長い時間がとれたため、2本目のnoteを書いてみたいと思います。
2本目は「人事がなぜROIを考えることが重要なのか」についての私の考えを書きたいと思います。
人事の仕事は長らく「成果がみえない」とか「効果がみえない」と言われてきた仕事です。だからこそ、「人事におけるROI(投資対効果)」について考える意味があると強く思っています。

従来型の人事は管理のエキスパート

日本の人事部門は、長らく「管理のエキスパート」でありました。
その背景には、日本という国が長期間に渡って特定の産業(製造業など)を中心とした経済成長を実現してきたことがある、と私は考えています。
極めて単純化すれば、日本の企業では、既に確立されている成功パターンに基づき「長期間・安定して仕事ができる人材」が求められ、そういった人材の確保に最適化された人事体制が構築されてきました。
つまり、長いライフサイクルのプロダクトで「成果」をあげるために、大きな変化や全く新しい価値創造が求められるのではなく、連続的に成果を拡大再生産できる人材を輩出し続けることが求められてきたのだということです。

以前、ある大企業の人事の方が次のような趣旨のことを言っていたことが今でも印象に残っています。
「うちの会社には飛び切り優秀な人材は必要ありません。それなりに優秀な人材が、たくさんいることが必要なのです」

企業内における拡大計画を「滞りなく実施する」ことができる人材が求められ、人事はそういった人材を確保・供給し続けることが求められ、そのためには、事業拡大に必要な人数をきちんと満たして、社員の情報を適切に収集し、長い期間を前提に処遇することが重要な役割になったのだと思っています。
ウルリッチの人事の4象限でいえば、まさに「Administrative Expert(管理のエキスパート)」と言われている領域でしょう。

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【出典】Ulrich.D. 1997. Human Resource Champions より作成

つまり、従来型の人事は、自らがGOALを検討し、設定し、そこに突き進むことが本質的には重要ではなく、定められたGOALにむかって、いかに効率的に投資を実施していくのか、が重要であったのだと思います。

だからこそ、
・新卒一括採用・年功賃金といった長期雇用を前提とした制度が採用され、
・経験や実績を積み上げる(下がることはない)職能等級制度が普及し、
・階層別研修や昇格試験などといった人材開発の仕組みを取り入れる
といった日本型の人事制度が定着してきたのだと私は思っています。

「Return(=成果)」を意識する

そういった人事が間違いだったとは思っておらず、逆に、そこに愚直にやり続けることができたからこそ、日本企業は大きく成長することができたのだと思います。
しかし、今は、多様化が進んでいる中で、人事の役割は大きく変わってきています。「GOAL」や「成果」を定めることそのものが人事が役割になってきています。
例えば、新規事業を創りだせる人材を発掘する、とか、データサイエンティストやAIエンジニアといったこれまで全く確保してこなかった人材を外部から獲得し、リテンションする、とか、これまでの延長線上にない、他社も成し遂げたこともないような「成果」「プロセス」が求められています。

「自分の会社で新規事業を生み出せる人材ってどのような人材なのか」
「自分の会社の事業でAIエンジニアが必要なのか。生かせるのか」

といった答えたことのない問いに対して、成果を定めて、成果を出していくことが求められるようになったのだと思います。そういった人事が「戦略人事」と世の中で言われるような、事業に寄与できる人事なのでないかと思いますが、そういった背景から、今こそ、人事がROIを強く意識すべきなのだと思っています。

「成果」が見えにくいといわれてきた人事

では、人事がROIを意識するにはどうしたらいいのでしょうか。
私自身、今でも悩んでいまして、なかなかROIを意識しようとしても、できるものではないと思います。

ROIは言うまでもなく「Return of Investment(費用対効果)」であり、必要なのはReturn(=成果、効果)を明確にすることです。
これまで長い間、人事は成果が見えにくい仕事であると言われてきました。しかし、本当にそうでしょうか?
人事の取り組みのなかにも、成果がわかりやすい仕事もあります。
・コストに占める人件費比率が高いから、人件費比率をXX%まで下げる
・売上目標達成のための生産計画が〇▲◇で、人員計画上XX人採用する

といった人事施策は非常に成果がわかりやすいもので、業績に直結します。一方で、成果がわかりにくいと言われるものは
・エンゲージメントサーベイをXX点にする
タレントマネジメントシステムを導入してXX人をリーダー候補に選抜する
・マネージャー候補に対して研修を実施する

といった取り組みで、成果が見えにくいとされるものの代表例でしょう。
・エンゲージメントサーベイ上げたら、業績はよくなるのか?
・タレントマネジメントシステムを入れたら、会社の売上はどれくらいあがって、コストはどれくらい下がるのか。
確かにすぐにパッと答えは出ません。企業の成長に本当に寄与するのかわからない=成果が見えにくいと言われてきたのだと思います。

しかし、成果がないわけではありません。成果がないのだとしたら、その施策はやらないほうがいいでしょう。「何らか成果につながる可能性がある」と考えるからこそ、その人事の取り組みを行うのでしょう。

①「時間軸」を意識する

ではどうすればいいのか。
私が重要だと思う視点が2つあります。

人事としてROIを意識するうえで重要な視点の1つめは「どの時間軸で効果・投資をはかるのか」を明確にすることなのではないかと思います。
人事施策の多くは短期で成果が出ず、長期にわたる取り組みです。
例えば、「人件費を削減する」「要員計画を達成する」がわかりやすいのは、明確に短期で期限が切れ、業績にも直結するからです。
一方で、人材開発や組織文化づくり、人材配置などといった取り組みは、時間軸の長い投資であること、他にも変数が多く、効果に直接関係ないことから、成果が見えにくいものとされてきました。

・その人材は、どの時間軸で、成果を回収するべき人材であるのか
・その研修は、どの時間軸で、どのくらい効果が出てくるものなのか
・そのローテーションは短期的には業績を下げるかもしれないが、どの時間軸で、成果がでるようになるはずなのか

こういった視点を持つことがROIを意識することにつながると考えます。

例えば、下記のグラフのようなケースがあったとしましょう。横軸に時間、縦軸にかかるコストや成果をとっています。
下記の【ケース1】では、短期の時間軸①で見れば、Returnの総面積のほうがInvestmentよりも大きく、投資対効果が十分見込める施策に見えます。
【ケース1】

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しかし、時間軸をのばし、長期で見てみたのが下のグラフですが、②の時期を過ぎ、③まで見ると、投資コストのほうが大きくなってしまいます。

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一方で、下記の【ケース2】のように、短期の時間軸①ではReturnが得られなくても、②、③と長い時間軸で見ていくと、十分なReturnが得られる場合もあるでしょう。
【ケース2】

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こういった「どの時間軸で」「どのくらいのReturnが得られるのか」「どのくらいのInvestmentが必要なのか」を意識したうえで、人事施策の実行を決める視点を持つことが重要であると思っています。

②成果の可視化にこだわる

「そんなことはわかり切っている。人事はReturnがわからないんだよ」と言われる人も多くいると思います。
たしかに、人事の施策はReturnが見えにくいです。
例えば、1人採用できたとしたときに、「その人が3年でアウトプットするのが〇億円です」などと、わかりません。
研修を実施したから「参加者の生産性がXX倍になります」などと、わかりません。
しかし、だからといって、Return(=成果)に目を向けないのは、怠慢でしかないと思います。
重要なことは人事の取り組みであっても成果を可視化(≒定量化)して測定ようとすることだと思っています。それが重要な視点の2つめです。

ある企業では、1人が入社することでいくらのReturn(=成果)があるのか、数値化しています。
また、ある企業では、あらゆる決裁をとるにあたり、そのReturnはどの程度で、そのためのInvestmentは(かかる工数も含めて)どの程度のコストであるのか、も数値化しなければなりません。
いずれも、日本を代表する高収益、高成長企業です。
もちろん、それぞれの成果の定量化が正解かどうかはわかりませんし、間違っている可能性もあるかもしれません。
しかし、人事という成果が見えにくい領域だからこそ、可視化をあきらめるのではなく、可視化をシミュレーションしてみることが重要なのではないでしょうか。
まず成果の可視化に取り組み、PDCAをまわす(その成果シミュレーションがよかったのかどうかのPDCAをまわす)ということにチャレンジをしてみることで、ROIへの意識がより高まってくるのではないかと思います。

効果が見えないものに対して投資できない

以前、私が尊敬するある企業の経営者から言われた言葉です。
「効果が見えないものに対して、投資できないですよね」
企業活動において、効果があるから、その施策は実施されているはずです。
にもかかわらず、人事の取り組みの多くは、効果が意識されない。それは、効果を見ようとしていないからではないでしょうか。

人事は、企業に求められる人材が変化したことから、労務管理がメインの仕事ではなくなりました。いかに、ROIを高められるのか、が求められるようになってきたと私は考えています。

もちろん、私も現職で書いてきたことを実践できているわけではありません。しかし、少なくとも、ROIの意識を持つことで、経営・事業と同じ目線をもった人事になれるのではないかと思っています。
そのためには、このnoteで書いた、
・時間軸を意識する
・成果の可視化をあきらめない

という2つに取り組むことで、人事として目線を1ランクも2ランクもアップできるのではないかと思っています。

以上、つらつらと書いてきましたが、noteの第2弾をまとめてみました。
(次はいつになるかわかりませんが、)また次のテーマも(いつか)まとめてみたいと思います。



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