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確からしさと最小二乗法

理系の大学生が必ず学ぶ講義のひとつに誤差の評価方法がある。一年生の学生実験の最初の方で学ぶ。私も大学一年生の4月か5月に最小二乗法のレポートを物理学実験で書いた記憶がある。ちょうどその頃初めてコンタクトレンズを購入し、世界の輪郭がこんなにハッキリと見えることに感動した。桜の花びらが散り若葉が伸びていく季節にその葉脈が葉っぱの裏に一つ一つついている様子を初めて見た時のことを鮮明に覚えている。実験と観察の用語を使うと解像度が上がったという表現になる。誤差について学んだのもその頃で、一次曲線のフィッティングを関数電卓でやったのを覚えている。誤差がない測定データには意味がない、とはよく言われるがその言葉を本当に理解すらまでにはその後しばらく時間がかかる。少なくとも学部の専門の実験を行った頃か研究室配属になった頃あたりからだんだんとわかり始めて、しばらく後に自分の卒業研究の結果や修士論文をまとめる頃になるとと体感としてわかってくる。

入学したばかりの大学1年生に初めての講義で測定誤差について全て教えるのは正直無理がある。誤差ってなんとなくこんな感じかな?くらいの捉え方でいい。今は誤差ではなく不確かさという表現に変わっている。とにかく嫌いにならないことが重要だ。

4月の後半の火曜日に2時間ほどの講義をして、結果、かなり面白かった。大学で教えるということは授業をするということは学会発表とは違うとはいえかなり似ている。目の前の聴衆に役に立つ話をするという点では15分の学会発表も2時間半の講義も同じだ。フルタイムだと多分全く違う体験になるのだろうけど。

授業で使うパワーポイントの資料は前任の先生の資料をそのまま使わせてもらうことにして話をする準備した。久しぶりに取り組んだ誤差の計算は結構手強かった。細かいところは忘れていたし、そもそも私は化学専攻だったから細かい数式の変形や偏微分の計算は学生の頃は眺めて終わり、というレベルだった。行間を埋めるのは物理学科の学生の役割で結果を使うのが化学科の学生という感じで、物理学科の学生を横目に途中の式変形を追えていいなぁ〜と思っていた。

今回講義の80分がどんな感じなのかやってみるまで全くわからず、ぶっつけ本番でやることにした。練習したらドツボにハマる気がしたから。本番は一応60分ほどかかってでなんとか最後までこぎつけた。面白い話を途中に入れたりする工夫は今回はパス。来年同じ授業を担当したら、実際のデータ測定での誤差の見積もり方とか素粒子実験におけるデータ処理の例なんかを紹介したい。加速器のデータ処理は大学の授業で紹介するのにピッタリだと思う。最先端の物理をやってる先端にいる研究者たちは同じ研究所にいるとはいえ素粒子の研究分野の方々の仕事はなんといっても華やかだから学生さんたちも面白いと思うに違いない。

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