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胸焼け

盆と正月には実家に帰るようにしている。
帰る、と言ってもドアツードアで小一時間もあれば着く距離だし、親とは普段から外でちょこちょこ会ったりしていて帰省と言うほどの事でもない。
ただ兄弟とはそうそう集わないから、数年前からなんとなく兄弟だけで写真を撮るようにしている。だから何って事はないけど、全員40代でいい大人なのに撮るのが面白くて続いている。

いつもは他の兄弟と同じく日帰りだけど、今年はなんとなく泊まってみた。自分の事は自分でしなさい、で育って来たはずだけど、気づいたら布団は父によって敷かれており、母はあれ食べこれ食べと続々食べ物を出してくる。二人の中では、私はいつまでも家を出る前の、食べ盛りでよく眠る20代前半のままなんだろうか。

親ばかり動かすのも悪いので、彼らのもてなし心を邪魔しない程度に手伝いを申し出る。
食器を洗っていると、四角い皿の角に汚れがこびりついているのに気がついた。前回うっかり洗い残した、という風ではなく、おそらく毎度その角は洗い残されているという感じだった。同じ皿が私の家にもある。確かにその角は洗うのに少し力が要り、目が悪いと汚れではなく影に見えてしまう。私は洗う手をゆすぎ、食器棚にある分の同じ皿と、他にも似たような四角い皿を順に手に取り、そのまま洗い桶に浸していった。父と母はテレビを見ながら楽しげに話している。この事は今はまだ気づかせてはいけない事の様な気がして、いかにも今使った分しか洗っていませんよ、の所要時間で終わるよう全力を出した。

翌朝はこれを持って行きなさいと、大量の食べ物が入った紙袋が用意されていた。お下がりのお菓子とおせちの残りを小分けにしたもの、そして日持ちする食材など。重くてかさばるなぁと思いつつ、気持ちがありがたいので頑張って持って帰ることにした。
迎えのタクシーが来て、二人は門の外まで見送ってくれた。ニコニコと並ぶ二人に車内から手を振る。写真を撮ろうかと思って、やめた。私の知ってる父と母ではなくて、病気で痩せてしまった父と、背が曲がって少し小さくなった母がそこに居たから。写真を撮ると再度現実を見る気がして、よう撮れなかった。

家に帰り、大量の栗きんとんをどうしたものか考えた結果、米粉等と混ぜてホットケーキにする事にした。今年はシロップを入れ過ぎたという栗きんとんは、混ぜて焼いてもだいぶ甘かった。そして米粉の分だけ量が増えて、一人暮らしの我が家は明日の昼食まで毎食ホットケーキになりそうだった。途方にくれながら、こんな風に途方にくれるのも後もう5〜10年くらいしか無いかもなと思うと、毎年胸焼けしてでも全部食べてやると思った。

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