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運動会はピクニック

"Hi does anyone know the timings for sports day tomorrow?" 6月の日曜日の夜、WhatsAppが鳴り出した。息子の中学校クラスの保護者グループチャットである。

そうだ、明日はスポーツデイか。改めて保護者あての案内を見ると、会場である大学のフィールドに11:30から駐車できること、最初のイベントは12:00に始まり、概ね14:30に終了すること、子供たちは"one track and one field event"に参加することしか書かれていない。

私はRefreshment(軽食・飲み物)を提供するボランティアとして行く予定にはしていたが、平日昼間のイベントを見に来る中学生の保護者は少ない。そして1年を通じて保護者同士がと学校行事で会うことは保護者会ですれ違う以外ほとんどない。

当日、11:30過ぎにラグビーポールのある真っ青な芝生に太陽が降り注ぐフィールドに着くと、赤、青、黄、緑の縦割りグループごとのテントが見えた。そしてフィールドの一番奥の木陰に長細いテーブルが3つほどセットされているので速足で歩いて行く。日ごろから学校のランチやケータリングを担当しているJudyが準備をしていたので挨拶すると、ケーキやサモサのサービスを受け持つように言われる。

他に飲み物を準備していた保護者ボランティアと思われる男性がいたので挨拶をして、何気なく3年前に日本から来たことを話すと、「日本のどこから?」とか「どうしてイギリスに来たの?」と尋ねてくれる。そうそう、こういう質問をしてくれると会話が続きやすい。「来年日本に旅行を計画しているんだ!おすすめはどこ?」とも。なんてラッキー。少し離れてコーヒーや水の準備をしているのが奥様のようだ。ブロンドのボブヘアにブルーのハイライトが個性的でおしゃれ。「Duolingoで日本語を毎日勉強しているの、みてみて、こんにちは!」「彼は、やさしい医者です」とスマートフォンのアプリを見ながら日本語を披露してくれる。それで私も、「時間があるときにLanguage Exchangeをしよう」と誘ってみる。

「飲み物何か飲む?」ということで、クーラーボックスで冷やされていたプロセッコをいただく。テーブルの上には、イギリスの夏といえばこれという、イチゴやキュウリが入ったピムスのピッチャーもある。いいなあ、こういうみんながピクニック気分のリラックスできる運動会。

だんだん保護者がRefreshmentを取りに来始めたので、「ご自由に取ってください」とか「こちらはビーガンのソーセージロールとサモサです、そちらはグルテンフリーのレモンケーキ」などと声をかける。6種類のうち、チョコレートケーキだけがノーマルの材料。イギリスの食事においては、何が普通のなのかわからなくなる。

そうしているうちに、WhatsAppが鳴り始める。「会場どこ?」「仕事で行けないので息子の写真を撮ってほしい」「私も!」など男子の保護者たちから続々と。息子のいる場所を探し、周りの子達と写真を撮ろうと呼びかける。そういえば撮るときなんて言うんだろう?ハイチーズじゃないよね、スマイル?と思いながらも、写真撮影に乗り気ではない男子たちを集めて素早く撮り、WhatsAppに共有する。「ありがとう!」「いい写真!だけどうちの子はどこ?」こんな時に遠慮がないのが面白い。

「ちょっと待ってね、撮ってくるから」と誰からか返信が。あ、会場に来てるんだ、このアイコンは、あそこにいる彼女かなと声をかけに行く。「いつも息子に親切にしてくれてありがとう」というと、「そうでしょ、うちの息子ほんとにいい子なの!学校生活には慣れた?」と当たり障りのない会話になる。イギリスでこういう流れのとき、自分の子供について謙遜することはまずない。

競技は100m走、200m走、400m走、リレー、ボール投げ、やり投げなど。息子はクリケットボール投げで60mの記録で、メダルをもらっていた。日本でやっていた軟式野球のボールより投げにくいらしい。

できるだけクラスの男子たちの競技中の写真を撮ろうとうろうろしていた時、一人の女性に声をかけられる。以前のイベントのボランティアで一緒だった中国人だ。小4の娘を連れて大学へ留学に来ていて、今年の10月まではここに滞在予定という。蘇州では英語の教師をしていたそうだ。イギリスに残る道を探しているし、また日本での教育にも興味を持っているという。連絡先を交換する。

自分の競技以外の時は、子供たちはテントの外で遊んだり、広いフィールドを散策したり、自由に過ごしている。全員の先生が来ているわけではないが、クラスの担任の先生を見つけたので息子の様子について少し質問をする。

すべての競技が終わり、片付けに入る。ドリンクカップやスナックのパッケージなどがあちらこちらにたくさん落ちているが、保護者も生徒たちも気にしていない。息子とできるだけ拾いながら、「サッカーワールドカップの試合後の客席でゴミを拾う日本人サポーターを思い出すよね」と笑う。私たちのアイデンティティが変わることはなさそうだ。

日本から来た生徒の親という立場で参加する、こんなイギリスのスポーツデイも最後かな。次にクラスのWhatsAppが鳴り出すのは何の話題だろう。


Refreshmentはすぐに完売!












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