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年間で50人のユーザーさんにインタビューした話

これは Mobility Technologies Advent Calendar 2021 の22日目の記事です。
本企画は弊社社員の個々の活動による記事であり、会社の公式見解とは異なる場合があります。

自己紹介

はじめまして。Mobility TechnologiesでタクシーアプリGOタクシーデリバリー専用アプリGO Dineのユーザーリサーチを担当している井立良子です。
私はプロダクトマネジメント本部アナリシスグループに所属し、データアナリスト兼リサーチャーとして活動しています。

私の所属するアナリシスグループはメンバーのスキルセットが多様で、カバー領域が幅広いのが特徴です。エンジニアリングに強いアナリストもいれば、データサイエンスに寄った高度な分析をするアナリストもおります。
その中で、私は市場分析やユーザー調査などのリサーチ領域を担当することが多く、具体的には「アンケート調査をする」「ユーザーさんから直接お話を聴く」など、わりとアナログな手法を用いています。
レガシーなやり方ではありますが、PdM、マーケ、デザイナー、エンジニア、Bizなど、サービスに関わる多くの人たちが「共通のユーザー像」を思い描ける事を目指しています。

2021年、気づけば年間50人のユーザーさんに対し、ユーザーインタビュー(デプスインタビュー)を行ってきました。
定性調査は「量」より「質」を追求するものなので、もしかしたら年間50人はちょっと多いと感じられる方もいると思います。
しかしタクシーアプリは、ユーザーさんの属性(=社会的役割)や、居住の地域によっても使われ方に差があるため、1テーマ10人程度にお話を聴くと丁度いい、という結論に落ち着きました。

ちなみに今年は、
・アプリのリニューアルに対するフィードバック
・競合サービスとGOを併用しているユーザーさんの分析
・カスタマージャーニー調査
・検討フェーズの機能に対する事前評価
こんな感じのテーマで、表層的な機能評価から深層的なユーザーニーズまで、理解を深めてきました。

そこで今日は、インハウスのリサーチャーがユーザーインタビューをする際にぶち当たった壁と、その乗り越え方をお伝えしたいと思います。

「ユーザーの生の声を聴きたいけど、何からはじめれば良いのかしら?」と思っているリサーチャーやPdMな方々の参考になればと思っています。


定性調査をコロナ禍でやるには

2020年9月、タクシーアプリ「GO」が誕生しました。
元々、ライバルアプリとして存在していたタクシーアプリ「JapanTaxi」と「MOV」が統合し、新たなタクシーアプリとして生まれ変わった経緯があります。そのため新生「GO」に対し旧JapanTaxiユーザー及び旧MOVユーザーからフィードバックを得たい、という機運が2020年末〜2021年始にかけて高まっていました。

「生の声を聴く」となると一般的には「グループインタビュー」「デプスインタビュー」などの手法が候補としてあがってきます。そしてコロナ禍以前の世界では「インタビュールームに赴く」「会社の会議室にお越し頂く」などが一般的でした。

しかし2021年1月、時はコロナ禍真っ只中、ステイホーム。
従業員でさえフルリモートで業務にあたっている中で、ユーザーさんに対面でお話を聴くのは難易度が高い状況にありました。

そこで、コロナ禍により急速に普及したZoomを用いて、リモートによるユーザーインタビューを試みることにしました。
実際、GOのユーザーはビジネスパーソンを多く含みZoomに慣れた人も相当いたため、リモートでの実施はあっけなく実現しました。定性調査業務のDXとも言えるでしょう。

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並行して、よりクオリティの高い調査を追求するために外部の調査会社にモデレーター業務を委託することも検討しました。しかし2021年1月当時、リモート下でのユーザーインタビューはまだ手探り状態期のように感じました。※あくまでも個人の感想です。上から目線でスミマセン。。
加えて、調査会社に委託するとなると調査設計のすり合わせ、リクルーティング、その他諸々でそれなりの準備期間と、何より決して安くはない調査費がかかります(正直、定性調査はびっくりするくらい高いんですよ。。)。

これでは求め(られ)るスピード感とコストパフォーマンスにはマッチしそうにありません。なので、まずは小さく始めてみる、もしうまく行かなかったら外部のスペシャリストに頼もう、位の感じで「実査はリモートかつ内製」に舵をきりました。


社外のリソースをうまく活用

基本的に内製で調査を進めることにしましたが、実査には「リクルーティングメールの送信」「日程調整」「前日のリマインド」「発言録の作成」などの細々とした事務作業が付いてきます。

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既存業務をこなしながらこの事務作業をこなすにはさすがに人手が足りないため、一部の業務はアシスタント業務が得意な外部のパートナー企業に切り出すことにしました。
これにより、私は調査設計・実査・分析などの部分にリソースを集中することができました。(その後、実査と事務作業を並行してもパンクしないラインがわかり、完全内製に。。。)


社内のメンバーもうまく巻き込む

定性調査のキモは具体的な発言を要約して抽象化することで、本質的な課題を掘り下げることにあります。しかしこの要約の部分はリサーチャーの主観に依存しやすいため、社内にリサーチャーが一人しかいない場合は注意が必要です。

そこで、インタビューには必ず1名以上の社内メンバーをオブザーバーとしてアサインし、ユーザー発言の解釈に偏りが出ないようにしました。普段はPdM、デザイナー、マーケター、エンジニア、BizDevなどのメンバーがオブザーバーとして参加してくれます。

具体的には実査の見学(+個別で追加質問することも)、実査が終わったらそのままZoomに残ってもらい、記憶が新しいうちにメンバー間でデブリーフィングをします。
ユーザーさんの発言に対して「どういった背景や心理が影響しているのか」「もっとより良い解決方法は無いか」などディスカッションすると、表層的なニーズだけではなく「本質な課題」も見えてきす。

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ユーザーインタビューのクオリティを上げるのに一番重要なのは「メンバー間で、しっかり振り返りをやる事」だと感じています。

そしてインタビューに参加したPdMがこんな記事を書いてくれました!


誰に聴く?どうやってつかまえる?

協力してくれるユーザーさんがいないことには、インタビューは出来ません。

そこでアプリの利用者に向けて事前アンケートを実施し、インタビュー参加OKな人の候補者リストを作成します。

事前アンケートの目的は2つで、分析テーマに対して量的な裏付けを得るため(全体感を捉えておくのは大事)、そして候補者へ声掛けする際の優先順位を設定するためです。これがあると、よりイメージに近い適切なユーザーさんにアプローチしやすくなります。

はじめの頃は一つのテーマ(案件)に対して都度インタビュー募集の告知を行っていましたが、アンケート作成やアプリ内への掲載に少なくとも1週間、回答データが貯まるまでさらに1-2週間、最低でも3週間は必要で、ちょっと機動力に欠けるなと感じていました。

そこで現在は、3ヶ月に1回のペースでアプリ内で満足度アンケートを実施し、満足度を定量的に評価しつつ、回答者(の中からインタビュー協力にOKしてくれた人)を候補者リストに加える方法を採っています。
この方法では、満足度アンケートの結果から候補者を「全体的な満足度が高い人」「○○機能に対する評価が低い人」などと分類することができるので、基本的な属性情報以外の情報も得ることができるようになりました。

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これによって、調査ニーズが発生したら即、手元の候補者リスト中から最もふさわしい人にリクルーティングができるので、実査までのリードタイムが格段に短縮できました。

尚、弊社サービスを利用していない人に対してアプローチする場合は、外部調査会社に頼る場合もあります。


内製×リモートで良かったこと

こんな感じで手作り感あふれる試行錯誤をしながら、内製×リモートによるインタビューのスタイルが定着したのですが、よかったことを挙げたいと思います。

インタビューフローの刷新がいつでもできる
実査をしてみると、インタビューフロー(どの順番で何を聴くかをまとめた、ユーザーインタビューの台本みたいなもの)を手直ししたくなることが、わりと頻繁に発生します。
例えば、実査前には予想していなかった新たな仮説が生まれたとか、「この質問は答えづらそうだな」みたいな改善ポイントが発生したり。
そんな時、アジャイル的にインタビューフローのブラッシュアップができるのは内製化最大のメリットだと感じました。
念入りな準備をするよりも走りながら考えたいタイプの人には特におすすめです。

平日の日中でも実査が出来る
リモートによるインタビューなので、仕事の合間にご参加いただける方も多く、平日の日中でも実査を行う事ができました。
従来型の対面インタビューでは実査は夕方〜夜、または休日に行う事が主で、家庭との両立のしづらさがあり子育て世代リサーチャーの泣き所でしたが、リモート化で一気に解決しました。

会いづらい人にも会える
私は東京オフィスの勤務ですが、例えば大阪のユーザーさんにお話を伺うための物理的障壁はゼロになりました。
また、タクシー利用者の中には傷病、育児のためにアプリをお使い頂いている方が少なからずおります。そのような方は従来型の対面調査では恐らくお目にかかれない層でした。
ですがリモートインタビューなら自宅から誰でも参加できるため、様々な方のお話が聴ける、というのは思いがけないメリットでした。

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(いつもこんな感じでインタビューしてます。弊社の敏腕PjM・K氏が友情出演してくれました)

時間効率が良い
外部のインタビュールーム等への移動が不要なため、従来調査よりも拘束時間が格段に短くなりました。そして移動がない分、社内オブザーバーのアサインが容易になりました。
直前準備〜実査〜デブリーフィングまで2時間程度で収まるので、対面に比べて所要時間は半分位に抑えられています。

その結果、ユーザーインタビュー実施のハードルが下がり、結果として年間50人もの方にお話を伺うことができました。


参考にした本

ユーザーインタビューの内製化を確立するにあたり、参考にした本の一部をご紹介します。

全体的な手法について学びたい方に
UXリサーチの道具箱定量・定性含めUXリサーチ全体を俯瞰しつつも、各手法の活用方法や注意点までまとめてあります。
全てを実践する機会は無いかもしれませんが、「こんなやり方もあるのね」という事がわかるので、全体感を捉えるのにおすすめです。


UXリサーチの最初の一歩を踏み出したい方に
UXリサーチについて体系立ててまとめてあり、非常に実践的。
完璧じゃなくても良いからまずはやってみよう!というメッセージが伝わってきます。
私自身、なんとなく自己流でやってた事が概ね間違ってなかったと確認でき、業務に自信を持てましたw
発売は2021年8月ですが、もっと早く読みたかった!今の時代に最も実践的な本。
あと、今までリモートではユーザービリティーテストが出来ない、という思い込みがありましたが、ノートPCをバックハグするようにしてカメラ前で操作してもらう方法があると知ったので、来年は試してみたいと思っています。


モデレーターにチャレンジしたい方に
定性調査の実査における注意ポイントやTipsが豊富で、体系立てて理解できます。まさに実践に役立つ本なので、はじめの一歩を踏み出したい人におすすめです。
私は今でもインタビューの直前に読み返して復習に使っています。
普遍的な内容なので、リサーチャーに限らず全ビジネスパーソンにもおすすめな内容だと思いました。


ユーザー分析の本質を理解したい人に
「ユーザーインタビューって利用者のほんの一部しか理解できないのでは?」という疑問を持つ方にオススメしたいです。そう思っている時期が私にもありました。
この本のメッセージは「ターゲットをN1を絞り込むことを恐れるな」。
要約すると「購買行動を左右する根本的な理由は、一人ひとりを見つめないとわからない。そして顧客の心理を変えるきっかけは、殆どの場合一つに集約される。」という内容なのですが、実際にインタビューを重ねてみて納得感のあるものでした。


おわりに

長くなりましたが、ユーザーインタビューはわりと簡単に誰でも始めることができます。少しでも興味のある方は「やってみなはれ」精神で最初の一歩を踏み出してみると良いと思います。(ただし個人情報の取り扱いについては細心の注意をお忘れなく!!)


そしてMoTは、一緒に働く仲間を募集しています。
ユーザーの声を聴きながら移動の未来をつくってみませんか?


明日のMobility Technologies Advent Calendar 2021 は、須江美紀さんの『マンションリフォームした話』です。