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私のお役目

二度目のデートからすぐ後に、彼にとって悲しい出来事があった。
ずっと慕っていた人が突然亡くなったのだ。

その人に憧れ10代の頃知り合って、仕事として関わるようにまでなった。
それから約20年。
最近は少し間があいていたけど、久々にまたやりましょうと次の仕事もちゃんと決まっていた。

なのに。

どうして。

そんなことがあったと知らない私は、のんきなLINEを彼に送って、知った。
とてもとても悲しんで落ちていた。
普段は強気な彼の、違う一面だった。
すぐに駆けつけてそばにいたかったけど、お互い仕事や家庭の都合でできなかった。

結婚してるのは問題じゃない。
響き合う関係であることに価値があると思ってるけど、自由に身動きできなくてもどかしい。

彼の家族、近くにいる誰か、私の代わりにどうか寄り添ってと願いながら、心配していた。

仕事は行けそう?
ちゃんと眠れてる?
そんなLINEをちょこちょこすることしか私にはできなかった。

大丈夫だよ、などと励ますことはせず、
ただ彼がポツリポツリとつぶやくように来るLINEにうん、そうだね、悲しいね、我慢しすぎないで、と返した。
そうしているうちに、悲しみ一色から少しずつ前向きな言葉が出るようになった。
葬儀が終わり、お別れしてきたよと連絡がきて、それでも私の都合で会うことはできず、切なくてやるせなかった。

それからしばらくしてやっと会えた。
彼の部屋に、参列者に配られた素敵な笑顔の似顔絵と、特別に形見分けでもらった仕事道具が大切そうに飾られていた。

まだ悲しいけど、悲しすぎて辛く悔しい気持ちは無くなってきた、と言っていた。
よかった。
少しずつでも前に進めているんだね。

私は彼にとって、この辛い出来事を乗り越えるために現れた人なのかも。
ふとそう思った。

だとしたら、お役目ちゃんと果たせたかしら。
彼の悲しみに寄り添って、前に進むための力をあげられたのかもしれない。
そうだったら私はうれしいし、そんな経験をくれた巡り合わせに、感謝しています。

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