アイツが髪を染めた日

姉が髪を染めた。小汚い金髪になって帰ってきた。
私が小学5年生で、姉が中学2年生の、確か夏のことだったと思う。
私はドン引きした。そんなの不良のやることだと思っていたし、それをやることで「不良」となった姉に対して軽蔑した。
両親は…よく覚えていないが怒っていたように思う。そりゃそうだ。学校にだってその髪の色じゃ行けやしない。

安直な言い方をすれば、姉はグレたのだった。それがハッキリと現れた最初の行動が「髪を染めること」だったように思う。
そこからの姉はもう酷いものだった。煙草は吸う、酒は飲む、同じ地区の男の不良共と無免でバイクを乗り回す、ケンカもする…学校なんてロクに行きやしなかった。友達の家を転々として3~4日帰ってこないなんてのもザラだった。

中学を出て、定時制高校を何とか卒業したはいいけど、美容師になるための専門学校は親に100万円単位の金を払わせておきながら途中で退学した。そこから2年くらい経って、姉は自ら人生の幕を下ろした。

散々人に迷惑をかけといて、最期まで自己中心的だった馬鹿野郎。そういえば死んだときの髪形も金髪だったような気がするな。少なくとも私の中での彼女にまつわる最後の記憶はそうだった、と思う。

何がそんな不満だったんだ。親か?学校か?それとも後から生まれてきて、親の愛情をお前から奪った私や弟か?

未だに少し考える。あの時お前はどうして髪を染めたのか。
その行為で何を訴えたかったのか。私たちが何を感じ取れなかったのか。

きっと一生分からない。私は一生髪なんて染めないし、死人は何も喋らないし、生きてたとしても他人の行動に隠された感情なんてきっと分からない。

ただ、街で如何にも「お金ないです!」って具合の汚い金髪の若い人を見ると、たまにアイツのことを思い出す。
そして思い出しては、無駄なことだ、と自嘲する。

それでもやっぱり尋ねてみたい。
「どうして髪を染めたの?」と。

#髪を染めた日

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