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私らしさを、ことばでなんか、語られてたまるもんか。

この文章は、COLOR Again×SHEbeautyのイベントに参加して書いたレポートエッセイです。イベント概要についてはこちらをご覧ください。

「自己紹介をどうぞ」という言葉が、怖くなくなるのはいつだろう。

「何者かになりたい」という気持ちはとうの昔に通り過ぎても、自分を語る言葉がうまく出てこないことに、いつまでも不安を感じてしまう。

職業1つとっても、ライターなのか編集なのかプランナーなのかうまく説明できないし、バリキャリと言われるほど強くないけれど、ゆるふわと言われるには力んだ毎日を送っている。目指したい目標やスタイルだって、世の中の言葉でどう語るべきかわからない。

なんとか言葉にしても今度は、他人の目に怖気づいてしまう。 “コラムニスト” と名乗ったら、笑われる気がして。目標を言えば「似合わない」と言われる気がして。自分を表現できるファッションも「年甲斐もない」と思われている気がして。

だからといって、他人から誤解されないように自分について言葉にしたところで、どこかズレているような気がする。どの肩書も、自分に似合っていない気がする。

世の中で語られている、どの “女性像”も自分にはしっくりこない。女子と言うには大人になりすぎたのに、女という言葉に違和感を感じるまま、20代が終わろうとしていた。自分がどんな存在なのか言葉で定義できないせいで、自分を上手に語れないまま。

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そんなときに、友人からイベントレポートの依頼をいただいた。彼女が主催しているプロジェクト『COLOR Again』と、ミレニアル世代が集まるコミュニティ SHEbeautyのコラボイベントだ。

COLOR Again:様々な企業と共創しながら、自分と向き合いながら心ときめく時間を提供。コスメのアップサイクル(違う用途でコスメを使い直す)を体験しながら自身への問いに向き合う時間を作ることで、あらゆるモノや人の可能性や多様性が尊重し合える世界の実現を目指している。(https://www.ficc.jp/inside/20210831/)
SHEbeauty:ミレニアル世代向けコミュニティブランドを運営するSHE株式会社が手掛ける、内面も外見も自分らしい美しさを実現するトータル美容プロデュースサービス(https://beauty.shelikes.jp/

(左より株式会社エフアイシーシー 伊藤真愛美、SHE株式会社 小池彩加、株式会社モーンガータ 田中寿典)

イベントの内容は、使わなくなったコスメでアート作品をつくるというものだった。さらに、私が以前から気になっていたサウンドバスも受けることができるという。

知らない人もいるかもしれないので補足の意味で言及すると、私たちは日々、大量のコスメを購入しては捨てている。

数年前、Instagramで #底見えコスメ というハッシュタグが流行った。『底見えコスメ』とは、その人がコスメを使い切るくらい、愛用しているコスメのことを意味する。つまり、コスメはよっぽど愛用しなければ使い切れないのだ。

私も、メイクグッズを大量に捨てている人間の一人である。新しいメイクに挑戦したくて購入したものの似合わなかったもの、少しずつ使っていたが消費期限が切れてしまったもの、新しい髪色に合わなくなったもの、実際に肌に塗ってみたらイメージと違ったもの、セットになっていたものを購入して一部だけしか使わなかったもの、誰かからもらったが気に入らなかったもの。

底どころか、数回触れただけのコスメも沢山ある。

『COLOR Again』は、これらの現状に課題を感じてスタートしたプロジェクトだ。確かに、”仕方ない”で済ませていたけれど、心のどこかで殆ど使わずに終わる、お気に入りの色のコスメに小さな罪悪感を感じていた。けれど、新たな使い道も思いつかない。だからこそどこか、自分のお気に入りたちを新たな愛し方を求めて、イベントに向かっていた。

※株式会社モーンガータによる5000人調査によると、約86.3%の人が余ったコスメを破棄している。

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イベントは、"ワークショップ→サウンドバス→アート体験"という順番で進んでいく予定が立てられていた。自分を表現するアート作品を描く前に、自分の心の内側と向き合うためのワークショップを行うという設計だ。会場のSHE Ginzaには、今日を楽しみにしていた十数人の人たちが集まっていて、机の上に並べられたキャンバスをちらちら眺めながら、大きなテーブルを囲んだ。

これまで経験したことのない体験。そこで感じたのは、だんだん "言葉から解放される" 感覚だった。

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最初のワークショップでは、"自分の理想の姿"と "理想に近づくことを阻むハードル" について考え、近くの席に座る人とシェアする。誰の悩みも心当たりがある内容で、誰かの悩みによって自分の気持ちにも気付かされる。

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私も正直に「自分が好きなことにもっと深く取り組みたい」ことを話した。そもそも私はずっと、自分の好きなものがわからないし、最近はそれを探す時間さえ、見つけられていないのだけれど。

自分との向き合い方に悪戦苦闘していた私に、新たなアプローチを教えてくれたのは、サウンドバスを担当するHIKO KONAMIさんの言葉だった。

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「最近、"自分と向き合う"という言葉をよく聞きますが、言葉だけが普及していっている感覚があります。実際、どれだけの人がきちんと自分に向き合えているんでしょう。今日は、難しいことは考えなくていい、ただ、音を聞いたら何か心が動くから。その心の動きや、思い出すものに、集中して」

そのことばが、音の中に潜ることに集中させてくれた。

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ごーん、ぼーん、きらきらきら、ふわーん。

静寂の中、目の前で、色んな音が浮かび上がっていく。その音も振動も身体で浴びる。

そのたびに、頭の中でいくつもの景色が通り過ぎていった。あれとか、これとか、それ。見たこと無いような景色も見た。あれはなんだろう、と考えている間に景色が溶けて、言葉にしようとする手をすりぬけていく。

そのうちに、ゆっくりと気づいていく。

言葉にしなくても、こんなに表現が溢れてくる。言葉は見つからないけれど、頭の中に浮かぶ景色は豊かで、多様で美しい色がある。

なんだ、言葉にできることなんて、世界のほんの一部じゃないか。私は、言葉以外でも世界を感じられるし、頭の中で表現できる。

言葉にできることなんて、私の感じられることの、ほんの一握りなのだ。

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サウンドバスの後のアート体験は、コスメを色材に変える特殊な液体magic waterを使って、絵を描くというものだった。この間まで瞼や頬に載せていたカラフルな粉は、液体に混ざると鮮やかな絵の具のように変化した。

私は、「何かわからないものを描こう」と決めていた。「コレは何?」と聞かれても、絶対に答えられないものを描こう。描いてるものが何なのか聞かれても絶対に答えない。

言葉以外の言語で自分を表現するのはあまりにも久しぶりで、気づけば絵を描くことに没頭していた。同じテーブルを囲む隣の人からも「たのしい」という言葉が漏れているのが聞こえる。

久しぶりに手にしたアイシャドウやチークを取り出して、絵の具に変えていく。

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強気な自分に挑戦したくて買った赤色のアイシャドウ。可愛すぎてもう使えないかも、と思ったピンク色のチーク。どうやって使えばいいかわからないまま使わなくなってしまったオレンジのアイシャドウ。

白いキャンバスに乗せたその色は、やっぱりとびきり可愛かった。私の瞼の上で輝くはずだった小さくて眩しいラメは、白い紙の上で、きらきらと輝いている。

そのきらきらとした輝きを見つめると思い出す。言葉にはしきれないけれど、この色のコスメに出会った時、確かに私の心は煌めいていた。"似合わないな"とか、"年齢的におかしいかも"といった思いのせいでかき消されてしまっていたけれど、この色に出会った時、私の心は純粋にときめいていたのだ。

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斜め前に座っている人が「こんなにキレイな色だったんだ」とつぶやいていた。私も同じことを思った。こんなに美しかったのか。

私は、このアート体験を通して出会い直せた気がした。自分が気に入って手に入れたコスメの色とも、その色に出会った自分の気持ちとも。

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アート体験中、周りの人たちがしばしば語っていたのが、"パレットの可愛さ"だ。カラフルに色材が並ぶパレットをしきりにみんな「可愛い」と話していた。世の中にあるパレットは大体がカラフルで、それなのに"可愛い"とはなかなか言われないはずなのに。

それはきっと、私以外の参加者の皆さんも、コスメの色と"出会い直して"いるからだろうと思った。自分の人生を彩るために拾い集めた色をパレットに並べれば、もう一度元気をもらえる。参加者の全員のパレットはそれぞれ違う色をしていて、それぞれが美しかった。

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「今日のワークショップにはブラウンのアイシャドウばっかり持ってきたので、ちゃんと絵が描けるのか不安だったけど、同じブラウンの中でも、こんなに多様な色があるんだと気づいた」

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とある参加者の方が語っていた感想だ。そう、この世の中には、言葉に出来ないことが沢山ある。一つの言葉が複数の色を包含している。

そもそも、COLOR Againには、“COLOR”という言葉を指定色で表現できないように、人も一色ではなく、無限にあるはず。社会によって色あせてしまった色を取り戻す。という想いが込められているそうだ。まさに、”色”という概念そのものが、言葉による多様性の締付けから私たちを解放してくれる手段なのかもしれない。イベントを通して、私たちは言葉にできない、愛すべき色に沢山出会い直すことができた。

ワークショップで誰かが私に聞く。「何を書いたんですか?」

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「わかりません、でもキレイでしょ」

私の他にもほとんどの人が、言葉にできない絵を描いていた。

世の中には、言葉に出来ないものが沢山ある。「貴方は誰?」と他人は聞くけれど、私を言葉で説明しつくすことなんてできるもんか。自分をうまく言葉にできなくても、私は私が誇らしい、その気持で十分だ。言葉から自由になって、自分の個性を捉えられたら、もっと自然に自分を愛せるようになった。

私は、私でしか無い。だから、既存の言葉の中に自分を押し込める必要なんてない。

お気に入りの色が漂うこの絵を見つめるたびに、きっと私は思い出す。

わたしらしさを、ことばでなんか、語られてたまるもんか。言葉にできなくても、こんなに私は輝いている。

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