練馬 RAD (ヘアサロン)
「スラング?」「COOL の、もっと上っすね」
30歳の時にどうしても自分の店を持とうとしたのだという。しかし開店して数年でコロナが流行した。めっちゃ大変だっただろうな。
「でも0人って日はなかったんですよね。ありがたかったです」
最初、笑顔が苦手なのかなと思った。無口なタイプにも見えた。しかし、しゃべり出すと、むしろ話好きなのだと分かる。笑顔もかわいい。
「接客業は政治と野球の話はするなって言うじゃないですか」
「言うねえ。宗教もね」
「でも、そういう話こそしなきゃダメじゃないですか」
「本当にそう思うよ」
正直、いいのかな、大丈夫かなとは思った。でも「俺の店だから」と彼は言う。その口ぶりに一片の迷いもない。
どんな社会にして行くか、決めるべきはこんな世代だと思う。まっすぐな言葉が溢れて止まらない彼をもし彼がまっすぐに考えるからという理由で見下す年寄りがいるなら、引退が遅すぎたと反省すべきだ。全てが若い人たちのものだ。見下すことも囲い込むこともせず、耳を傾けなければならない。
「カッコいいこと並べてるみたいですけど」
「表面的なことじゃなくて、考え抜いて、これしかないって結論してしゃべってるのちゃんと伝わってるよ。だから全然そんな風に感じない」
「スラムダンク好きなんだね」
「人生の教科書です!」
「じゃあ読んでみようかな。『リアル』派だけど」
「『リアル』から入るの珍しいっすねー」
「早く続き書けやって思うけどね」
「あれは、どうしたらいいか悩んでると思います」
「みんな幸福にしたいだろうけど、あれは悩むよね」
「COOLよりさらに上の」刷新されるべき何か。それさえいつの時代も、その年代にある誰もが夢想することかもしれない。とりあえずユースの声を集めておけば仕事をした気になるメディアも気持ち悪いと私は思っている。
しかし、全ては次世代のものだという、そのことだけは片時も忘れてはいけない。彼らが見つける “RAD” があることを私は疑っていない。誰もが見たことないような、カッコいいもん見つけなよ。それしかしちゃダメなんだ。
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