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雨上がりの生き物たち

「これ雀。水を浴びる姿を撮影したい。そのまま居てはくれないか」
「また下らない記事を書くのですね。しかしあなたに水がかかります」
「構わぬ」
「実を申せば、あなたから唐揚げ弁当の匂いがするのです……鳥の」
「それは済まなかった。近づきはせぬ。安心して存分に水を浴びてもらいたい」

この量ならただ嬉しいだけ

「此れはしたり」
「どうなさいました」
「その水たまりには飴坊に、源五郎までおるではないか」
「あなたには、お珍しいでしょうか」
「子どもの頃はよく見たものだが。先般、農薬で死に絶えたものとばかり」
「ちゃんと居ります。オオカミもカワウソもフタバスズキリュウも」
「マジか」

「なぜあなたの心はふさぐのですか」
「困っておる」
「それはなぜ」
「なぜもない。そこは水たまりだ。日が高くなれば、干上がってしまう」
「ふふ。そうなれば虫は別の水場を求めて飛び立つだけでありますものを」
「フタバスズキリュウは飛べねえだろ」
「フタバスズキリュウがいたとして海だろ」
「あっ今『いたとして』って言った~!」

「まだ浮かぬ顔をなさってますね」
「生きるに適さない場所に生まれることの寂しさを思うのだ」
「毎度律儀にゲイネタ入れなくていいですよ。皆コメントしづらいです」
「仕事だもん。見透かしたように言うのやめて。ただ生育環境はさ――」
「あなたのアパートにはタヌキも出るのでしょう。山もない東京23区で」
「驚いた。そなたたちはこの土地にいながら東京を窺い知るというのか」
「ふふ」
「何をわらう」
「……風が、なぜ吹くとお思いですか」
「え、それはまさか……!」
「あなたはこの世の全てを知っているわけではない。否、知ろうとしない」
「まさか、まさかそんな……」
「気圧の高低差で風が生まれます」
「てめ食ったろか」

パタパタパタ。


 スズメは砂浴びも水浴びも好む。多くの鳥はそのどちらかしかしないらしく、その点でスズメは興味深い存在であるようだ。よほど寄生虫にたかられてるのか。何にせよスズメの水浴び姿はたまらなく愛らしい。

 そのスズメが去った後の水たまりにアメンボやゲンゴロウがいた。餌があるわけでもなかろうし、人の目には泳ぐのを楽しんでいるとしか思えない。満腹で、今はただ温泉気分なのかもしれない。あと数時間しかもたない、即席のビオトーブ。水が干上がってしまう頃にはゲンゴロウの内羽も乾いて、大空に飛び立てるのかもしれない。


※トップ画像は「まっぷる」様サイトからお借りした「すずめ焼き」です。ネーミングのせいで、子ども時代の私は電線に並んだスズメが高電圧で焼かれる想像をしてしまい、その恐ろしさに震え上がったものでした。ええと、醤油とみりんの味がします。子どもの頃によく食べさせられて苦手意識しかありませんでしたが、この年齢になるとまた食べてみたい気がしているのが不思議です。スズメが画像を撮らせてくれなかったため、この画像です。デジカメ向けるとすぐ逃げやがんの。事務所がうるせえのか。アイドルか。


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