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Eテレ「理想的本箱」再放送があります

4月27日(土)21時から是非ご覧いただきたい番組があります。

Eテレ 理想的本箱「同性を好きになった時に読む本」2024年4月27日(土)夜9時~

「理想的本箱 同性を好きになった時に読む本」の再放送があります。その番組中で私が企画編纂に関わった「カミングアウト・レターズ」という本の紹介があります。未見の方はぜひこの機会にご視聴ください。もちろん再放送のたびに観ていたという方も、もう一度ご覧いただけましたら。今すぐ録画予約していただいてもよろしいかと。

Eテレ 理想的本箱「同性を好きになった時に読む本」2024年4月27日(土)夜9時からです。 
【再放送】5月2日(木)14;35〜、放送後、NHKプラスで一週間の配信が予定されています。  

「カミングアウト・レターズ」 letter1 :「母さん、あのとき泣いてたか」を映像化

 「カミングアウト・レターズ」に収められた親子の往復書簡からとりわけ映像と親和性が高そうな第一書簡「母さん、あのとき泣いてたか」が映像化され、27歳のゲイである息子役を平埜生成氏が、カミングアウトを受けた55歳の母親役を原日出子氏が演じられてます。それだけでも贅沢なのですが。

 この映像が(おそらく本を読んで下さった方は深く頷いてくれると思うのですが)非常に丁寧に作られているんですね。手紙の親子に愛情と敬意をもって制作に臨まれたことが、それもスタッフ皆さん一丸となってそうしてくれたことがよく伝わってくる。「ミルクピッチャーのインサート」ひとつにしても「外せない」と思って下さったのが分かる。そして脚本の妙。本当に素晴らしい。スタッフ・キャスト皆さんの熱意に驚き、感激しました。書籍の編者としての望みをはるかに上回る愛情をいただいたのです。

「いつから?」ってこう言うんだ、って。それだけで泣き始めていた


 書籍の手紙にはなかった「ある回答」も映像では描かれていて、「映像ならでは」の演出になっている。「本では触れられないそこに答えるのか!」と驚き、人の手が掛かるとは豊かなものだなあと、幸福感を味わいました。原作と映像を比較した方にしか分からない部分についての話をしますと――つまりそれ以外の方には何のこっちゃなのですが――手紙(本)には「母親の秘密」と呼べるような「親が子に明かさないこと」がありました。その余白は余韻となり書籍においては成立する要素なのですが、「映像では処理しないわけにはいかない」。ゆえに映像では「そこに踏み込んでいる」のですが、徹底して手紙を読み込み全人的な理解をしての「その表現」であったことがよく分かる。それは子についての映像的描写でも同じで、手紙には書かれない部分が映像では表現されてあるのですが、その全てにおいて「あの親子ならこうだっただろう」という理解あっての表現で、共感と感謝しかなかったですね。「そうそう、あの手紙は台所で書かれたはずだ」と、きっと誰もが納得したんじゃないでしょうか。

「俺、人を殺してしまった」と言われたみたいに――のくだりで、それは、息が止まるほどの。


 現在「理想的本箱」は第3シーズンが放送されていますが、実はそうした本放送に先行してパイロットフィルムのように放送された3本のうち1本がこの「同性を好きになった時に読む本」というテーマ回だったのですね。おそらく番組として軌道に乗せようというタイミングだったのではないでしょうか。「何としてでも良いものを作ろう」という圧倒的な熱量が感じられたし、渾身の祈りが込められていた回だったと思うのですよね。

気持ちとしては、ロケ地巡りしたいくらいです。本当にありがとうございました


 書籍版の編者が思う「見逃せないポイント」は、レストランに現れた母親の、「息子とのデートに心弾んだ、その背中」です。原日出子さんの繊細な演技からずっと目が離せない。平埜生成さんも母親にカミングアウトするために準備してきた息子の「それゆえにこうなる(しかし)」というポイントを押さえて抑制しつつも的確な表現をしている。何ともありがたかった。ありがたかったですね。私は泣いてばかりで、観直すために予約録画しておいてしみじみよかったなと後から思いました(ぜひ録画をお勧めします)。

それは子がまだ実家にいた頃の好物で。あのお母さんの笑顔が見られたことも、嬉しかった


 私は編者だったので本に収められたどの手紙にも読者のスタンスが取れませんでした。当たり前ですが仕事ですから、送られて来る手紙に対しては他者目線とも言えるような距離をおくのです。それは出版後二十年近く経過しても変わらなかった。しかし映像化されたとき、初めて一人のゲイとして「カミングアウト・レターズ」の世界を享受できたように感じていました。
 
 自分が十代の時にあったらよかったのにと思える本を作ったはいいけれど、私は完全な読者にはなれない。それは仕方ないけれども、贅沢な願いを口にすれば、やはり一読者として本を手に取ってみたかったのが本音です。期待しつつも心の震えを恐れ、失望を待ち構えながらも希望にあらがえず本を開きページに言葉をたどる。諦めていたそうした体験は、私にとっては映像化されたときに訪れたのでした。本当に思いがけなかった贈り物でした。


 カミングアウトできないまま終わる性的少数者が多い時代に、それゆえ多くの人が受け取ることができない「親の言葉」を伝えること。――映像では原日出子さんがその「伝える」役割を担って下さって、至福の経験でした。今では多くの人の心に子を思う母の像がある、その幸福を思います。これからの人生に何一つ良いことがなくても私は幸せな人間だと、思えるのです。

 ぜひ放送をご覧ください。番組の書籍版もぜひぜひ。そして併せて「カミングアウト・レターズ」も手に取っていただけたら非常に嬉しいです。


書籍版「NHK理想的本箱 君だけのブックガイド」インタビュー記事
ブックディレクター・幅允孝さんが語る『NHK理想的本箱』と読書への思い

 

 「カミングアウト・レターズ」の話ばかり書いてしまいましたが、田亀源五郎氏の「弟の夫」はコミックはもちろん、番組の「映像の帯」で紹介されたドラマもディスク化されています。私は「ココアのシーン」が好きです。

 マイクは「必ず受け入れられる」と思っていたわけじゃないはずで、胸が痛くなります

 カナダ人のマイクが夭逝した同性パートナーの故郷である日本を訪れるところから物語は始まります。伴侶の肉親たちとの初対面での出会いから絆を結び家族になっていくドラマには、軸であるべき人を失っているがゆえに悲しみが底流するものの、喪失感を抱えた人々が寄り添い家族を形成していく姿には、人が全てを奪われるものではなく、常に希望を探さなければならないと励まされた思いでした。切ないですけどね。

断絶のためでなく、希望のために闘いたいものですね
コミックもドラマも大好きです、「弟の夫」。

 コミック第1巻の表紙とDVDジャケットを並べると、漫画のマイクが着るTシャツにデザインされているのはホロコーストにおいて迫害対象だったゲイを表すピンクトライアングルで、恥辱の象徴です(レズビアンにはパープルトライアングルが用いられました)。DVDジャケットでは性的少数者解放のシンボルであるレインボーフラッグになっています。現代ではどちらもプライド・イメージとしてありますが、記念すべき第一巻(全4巻)の表紙で田亀源五郎さんはピンクトライアングルをマイクに着せた。それが「決して甘やかなだけの物語ではない」という作家の宣言/決意と私には感じられ、好もしかった。大好きな表紙です。ドラマ版でレインボーフラッグに変更した意図は、おそらく変化への祈り。それも温かくて、並べるとついつい見入ってしまいます。忘れてはいけない歴史と、未来に託される希望。どちらも胸に刻んでいたいと思います。


 エッセンスをお伝えできたかどうか分からないのですが、ひとまず。ご視聴のきっかけにしていただけたらよいのですが。よし寝る。



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