『わたしはこうして執事になった』

11月12日火曜日、晴れ

昨日と今日との行き帰りで慌ただしく読み終えた。ロジーナ・ハリソンの手になる実在の5人の執事たちの来し方の物語。ロジーナ・ハリソンは『おだまりローズ』の人である。クリヴデンのリー氏の章もあるのである。

ところでこの本で出てくる執事という肩書。後書き解説によると Gentleman's Gentleman、紳士付き紳士のことらしい。つまりあれだ、ジーヴスの世界だピッピー!(や、ピッピープップー言うのはジーヴスでなくてバーティーだけど)

いまさら戻れない時代の話ではある。ただ華麗な社交界というものがあってこれを支える人々が暮らしていた、そういう世界がほんの少し前まで(どうやら僕が生まれる直前に途絶えたようだ)存在していたんだということが、その引き込まれる軽妙な語り口でありありと浮かんできてとても楽しい時間を過ごせた。(そういえば先日みた『ロングウェイ・ノース』もまた、舞台はロシアではあるけれどそういう社交界の描写から始まったんだった)(さらにそういえばカズオ・イシグロの『日の名残り』もまさにその沈みゆく夕暮れどきの大英帝国の執事の物語だった)

いかなる傑物も下積みから始まり、ときに大胆な選択もして偉大な先達に導かれて見上げるような人物になるんだなあ、というのが大雑把なまとめ。『キングスマン』によれば「マナーが紳士を育くむ」わけだけれど、人はその人をとりまく環境によって変わるんだ、とも言える。
いまの時代、固定された身分制度というものでもなし。その気になれば自分で選べる環境がある──そうおもうと、うじうじ足踏みしている自分って情けないなあ……なんてこともおもってしまう。

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